第38話 最後の言葉
「そうかもしれない。でも、正しくなくたとしても私たちは誰1人、想之也くんだけを犠牲になんかしたくないよ」
なんで笛乃さんは、僕とそこまで関係があるわけでも、僕になにか特別な想いがあるわけでもないのに、どうしてこんなにも涙目になってまでも僕に訴えてくるんだろう。本当に心からそう思うのだろうか。
「別に僕がいなくなったとしても笛乃さんに被害は被らないんじゃない? 君は僕がいなくてもその世界を創れると思うよ」
僕は笛乃さんに対して更に冷たくする。さっきから僕の放つ言葉は氷よりも何倍も何倍も冷たい。
本当に僕って酷いな、自分勝手だな。でも、どんな自分でももういい。もうすぐ僕は消えるんだから。僕の知らないうちに跡形もなくなるんだから。
「想之也くんって本当に馬鹿なの? そんなことないでしょ? 想之也くんがいて助かっ助かった人はたくさんいるはずだよ。だから君の命は君だけのためにあるものじゃないよ。意味のない命なんかこの世にないんだから。だから、やめてよ!」
笛乃さんの必死な言葉に僕は思わず、そっちに引っ張られそうになってしまう。いや、だめだ。だったら意味のない犠牲もない……でも、それを声に出すことはできなかった。本当はそうかもしれないけど、犠牲にはなりたくなんかないから。
「ありがとう。でも、ごめん。自分がなる。僕もこの学校の伝統行事を守りたかったから。だから、僕がこのために犠牲になれたらむしろ幸せなんじゃないかな」
こう考えれば、犠牲になることへの決心がつく。犯人は待ってくれてはいるけれど、そろそろ覚悟を決めなきゃいけない。
最後の判断をしなければいけない。
そう、大人の判断を。
「でも、最後に言葉でも贈ろうかな。このままいなくなるのはなんかあれだし」
「おい、お前、本当に、どうしちゃったんだよ……」
もう、僕がいつもの僕でないことが分かって、これ以上自分たちにできることはないとでも悟ったのか、もう僕に口出ししてくるような素振りはなかった。
ならもう、嫌だけどなにもかも僕の自由だ。
僕が犠牲になることができる。
今日で自分が終われる。
未来をちゃんと閉じることができる。
「笛乃さん……僕はあまり笛乃さん関わりがなかったけど、この数時間で笛乃さんのことを色々知ることができた。優しくて、誰かのことをちゃんと考えられる。明るい性格だから関わりやすいけど、でもさっきみたいに大切なことで怒ってくれる……すごく素敵な人なんだなって感じました。また、あの世界でもこういう人がいたらいいなって思ってるよ」
「想之也くん、本当にだめなの、本当にその答えが正しいと思ってるの……?」
「ごめん」
なんで僕は……なんだろうか。でも、笛乃さんの言葉には答えられない。
「流希は僕が高校で一番仲良くしてくれた友達だった。いつも楽しい日々を一緒に創ってくれてありがとう。流希には直接言ってなかったけど、なんだかんだいっていいやつだったよ。自分が思ってるより流希は何倍もすごいやつだ。これからも僕の分まで楽しんでくれよな。また、どこかで会おうな」
「馬鹿か、お前抜きで楽しめるかよ。ふざけるなよ! 何考えてるんだよ!」
「ごめんな」
さっきから僕は謝ることしかできていない。僕は一体なんでなんだろう。こんなにも僕を想ってくれている人たちがここにいるのに、何にもできないんだろう。でも、僕のことを3人がここまで想っていてくれてるなんて……少し嬉しかった。人生でここまで誰かに認めてもらえたと思った瞬間は初めてだった。
そして、最後に僕は逢望さんに言葉を贈る。
逢望さんともう、この姿で会ことなんてできないんだから、本当の想いを、自分の秘めている想いを全部ぶつけてもいいよね。
自分を空っぽにしてもいいよね。
最後ぐらい、いいよね。
「逢望さん……。逢望さんにはこの話をしたいな……電車が運休になっちゃったあの日のこと。その時、僕と話したじゃん? 僕の人生をこうやって認めてくれる人もいるんだなって思って、あれが一番素直になれた瞬間だった。僕は凄くそれが今でも心に残っているんだ」
その出来事で僕は人生で初めて――初めての恋をした。だから、もう最後なら、最後だから伝えておきたい。
こういう形でいいのか? 別に想いを伝えられるのなら僕は構わない。だって流希も言ってくれたし……どういう形が一番の恋かってことは人それぞれだってことを。だから僕はこの恋も間違ってはいないと思う。
「――あのさ、最後にこんなことを言い残して、曖昧な感じになって僕は消えちゃうけど、僕は一ついいたいことがあるんだ。僕が人生で初めて誰かに恋をしたのが――逢望さんだった。それは過去形じゃなくて、現在進行形で続いているんだ。だから僕は最後にそのことを伝えたかった。ならなんで一人で犠牲になるっていう覚悟を決めたのかって思ってるかもしれない。でも、僕はもう会えなくたとしても、この後がなくたとしても、その最後の最後までその人のことを想えることが色んな考えがあるけれど僕にとっての一番の恋だと思ったから。だから、最後まで君のことを想いたいです。最後に僕は恋をして終わりたいです」
「そ、そのやくん……」
「僕みたいな人にはこんな言葉しかでないけど――」
逢望さんが今、何を感じ、何を思ってるなんて考える力はもう僕なんかにはない。
そして、僕は最後の言葉を言う。恋をした僕がなんのひねりもなく、そのまま言葉にして表す。逢望さんは僕に素直な気持ちで接することができるようにしてくれた。だから、僕も素直な気持ちで言葉を伝える。
「――ありがとう。好きだ」
僕は自分自身がどんな顔をしてるのかよくわからない。でも、逢望さんの顔ははっきりと見ることができた。その涙の顔を、僕のことをしっかり見てくれている顔を――
僕の本当の恋は、もう会えなくたとしても、この後がなくたとしてもその人を最後の最後まで想うことができる……そういうものだと感じた。それは流希と笛乃さんが選んだ関係を知って、そう思えた。僕にとってはこうなんだって。色んな形がある中から僕はこれを選んだんだ。自然と導いてくれた。
最後にこうやって3人のことを想えて、恋をすることできてよかった。
――さよなら。
僕はその言葉を心のどこかでいいながら、窓の方へかけていった。
「おい!」
――誰?
誰かが僕の体を掴んで動けないようにしてくる。
流希と、笛乃さんと、逢望さん。
3人は窓から落ちようとした僕のズボンや服を引っ張ってなんとか僕をあっちの世界に行かせないように、必死に僕を掴んでいる。
いや、でも僕はこの力を解かないといけないんだ。3人の力を僕は振り払いとこの先の未来は待っていない。
誰もなにも、変わらない。
だから僕はありったけの力を使って3人を振り払った。僕が今までで出した中で一番の力だと思う。3人がちゃんとは掴むことができてなかったおかげもあって、なんとか振り払うことができた。そして、僕は全速力で窓の方に走った。
僕を邪魔するものはもうなにもない。
ありがとうな。
また、この学校の伝統行事が復活して誰もが楽しめることと、そして3人の未来が明るいものであることを願っています――
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