第17話 図書室の鍵と約束

 やはりスマホは便利なんだなって本当に今、肌で感じている。だってこれじゃ地学室に戻るまでお互いの近況報告すらできない。今2人がどの教室にいるかも分からないし、周りは暗いので、見つけるのは場合によってはかなり時間がかかってしまうかもしれないからそれは大きな報告があったとき以外したくない。


 普段、教室でほとんどの人が休み時間にスマホをいじり、SNSを見ていたり、何か興味のあることを検索をしていたり、動画を視聴しているそんな光景が懐かしい。


「あ、そうだ、またやった。図書室は鍵がかかってるんだった」


 図書室まで来たのはいいが、ドアに鍵がかかってることを忘れていた。本日、ドアに鍵がかかってるのに遭遇したのはこれで2回目だ。ここはどうやら探すのは断念するしかなさそうだ。


「あ、鍵なら隠し鍵があるよ」


 そう言うと、ドアに付いていた手のひらサイズのかわいいくまのぬいぐるみのマグネットを一旦とって、後ろにし、そこについていたファスナーを開ける。


「えっ、そんなところに!?」


「うん、ほら!」


 まるでマジシャンかのような華麗な動きで、そのくまのぬいぐるみから小さな鍵を取り出した。そして賞状を見せびらかすかのようにその鍵を僕の顔の近くまで近づける。ただのかわいいマグネットの飾りだと思っていたが、そんな仕掛けがあったとは。


「なんで知ってたの?」


「笛乃ちゃんが図書委員会だから、人数がいなくて手伝ったときに特別に教えてくれたんだ」


 確か笛乃さんは図書委員会の委員長だった気がする。僕も前にラブコメ漫画を借りたときに対応してくれたのが笛乃さんだったが、同じクラスのそれも女子ということもあり、その時はめちゃくちゃ恥ずかしかった(でも、相手は特になにも聞くことも、表情を変えることなく対応してくれた。でも、絶対に何かしら感じたはずだ)。


「でもさ――なんか、誰かが触った? 少しだけぬくもりが……。想之也くんも触ってみて」


「あー、うん、確かに体温を感じる」


 逢望さんに言われ、僕も鍵に触れる。確かにまだ温かい。誰かがギュッとでも握ってたんだろうか。誰かが使った形跡があるということは、犯人が入った? 断定はできないが、可能性は大いにありそうだ。


「たしか、流希くんも図書委員会だったよね。そういえば2人、呼び捨てでお互いの名前を言ってたから、委員会とかで少し仲良くなったのかな」


 忘れていたが、流希も図書委員会だった。そういえばさっき言ったラブコメ漫画の続きを借りるときに対応してくれたのが、流希だった(ちなみに流希には借りる際苦笑いされた)。


「お互い呼び捨てで呼んでたから、たぶんそうかもね」


 委員会でどう2人が仲良くなったかは知らないが、お互いの好きな本か作家でもあったのか、そこから仲良くなったと考えるのが妥当だろう。僕は基本的にラブコメ漫画か、地の文が少なく会話文の多いライトノベル系の小説ぐらいしか読まないので、そうだとしても2人の話に入るのは難しそうだ。


「私たちもよかったらお互い呼び捨てしない? この経験自体はあんまいいものじゃないけど、少し仲良くなれたから」 


「えっ……ちょっと待って、お互いってことは僕も逢望さんのことを?」


「うん、もちろん」


 そうだよという風に逢望さんは言った。別に呼び捨てぐらいそんな恥ずかしくないだろと言われるかもしれないが、僕は人生の中で男子以外の同級生で呼び捨てしたことがたぶんない。だから結構の難問を課されている。でも、人によっては呼び捨ての方が親近感が湧くとか感じて嬉しいんだろう。その一人が逢望さん……。でも――


「いや、恥ずかしいな……。逢望さんが僕のことを想之也って呼ぶだけじゃだめ?」


「それじゃなんか釣り合わないじゃん! じゃあさ、条件付きで。私たちがここから無事に出られたら。無事に出られたってことはあの2人も含めてお互いが協力しないと出られないと思うから。協力イコール仲良くなれた。そういうことにして」


「じゃあ、まあ……出られたら、ね」


 この約束から逃げられそうにないんで、僕はしょうがなく条件付きでその約束を受け入れることにした。


「じゃあ、約束」


 本当はここから出ないといけないのに、さっきの言葉は少しだけ逢望さんはもしかしたら出られない可能性もあるけどと言ってるように感じた。そんな事を深く考える前に逢望さんが指を出してきた。指切りげんまだ。僕と逢望さんは真暗な、何も照らすものもないこの廊下でそんなものをやった。


 出なきゃいけない、ここから出られたら約束、逢望さんを呼び捨てする。これは僕にとって小さな約束に過ぎないのだろうか。それとも大きな約束なのだろうか。



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