第18話 恨む

 さっき逢望さんがくまのぬいぐるみの中から取り出した予備の鍵を使って、図書室の中に入る。僕も後を追うにして中に入った。幸い図書室の電気はスイッチを押すとピカンとついた。どうやらここの電気は制御されてないみたいだ。久しぶりに眩しい明かりを見た気がする。だから一瞬目をつぶってしまった。光が僕らを攻撃する。少し痛い。目がチカチカする。


「逢望さん、光、大丈夫?」


「うん、少し眩しく感じるけどなんとか。ありがとう、気にかけてくれて」


「いや、そんな、別に」


 素直なありがとうという言葉が多分この世で一番僕をこそばゆくする。別に特に意図もなくやったことに、今みたいにありがとうと言ってくれると。


「でも、ここには人が来たんだとしたらなにか理由があるよね。もしさ、仮に犯人がここに来たとしたら何すると思う?」


「んー。何かを調べに来たか、何か本に挟んだ、それか僕らがいないかを調べに来た……この3択かな……?」


 この中で有力な説と言われればどれかは分からないが、僕が思いついたのはこの3つ。何かを調べる? 犯人はスマホを持ってるから、わざわざ来るだろうか。じゃあ、何か本に挟んだ? これはまあ、ありえなくはないけど、挟むものなんてあるんだろうか。僕らがいるか確認? でも、僕らがいた場合、バレる気もする。なんか3つとも違うような気もしてきた。


「なんか、ごめん。どれも、違うかも」


「いや、そんなことないかもよ」


 逢望さんはいつの間にか僕の近くからはいなくなっていた。逢望さんは貸出カウンターの方にいた。そして目を逢望さんの手の平に合わせると、それは貸出期限などの紙が貼られているホワイトボードを指していた。


『明日8:00 最終』


『職員室に?』


『なくなったのはあいつのせいだ』


 そんな文字がホワイトボードに殴り書きされていた。でも、所々指とかで消した後がある。1つ1つの文の意味ははっきりとはわからないけれど、これが犯人の書いたものなら、犯人が何かの恨みのようなものを持ってることはたしかなのかもしれない。それも、かなり強い恨みを。


「狙われてるのは、この学校?」


「そうかもね……職員室ってことは……何か先生に恨みがあるのか、それとも何か職員室にその犯人が欲しい物が隠されてるとか……」


 もし、その犯人の恨んでる相手が仮にだけれども誰か先生だとしたらこ事件の犯人はこの学校の生徒の中にいる可能性がかなり上がってしまう。でも、待てよ――


「もしかしたら犯人、この学校の生徒かも……って思ってるでしょ。私もそれ思ったかも」


 どうやら今、同じことを逢望さんも思ったようだ。もし、これが僕ら生徒なのだとしたらかなり手の込んだものだ。もしかしたら犯人は身近にいるのかもしれないとまで思ってしまう。そう考えると何だか、怪談話を聞いてるような寒気がしてくる。


「でもさ、この学校に恨まれるような先生、いるかな……?」


 でも、僕が思うにこの学校で恨まれるような先生はいない気がする。もちろん僕がこの学校の先生全員と関わりがあるわけではないので、断言できるかと言われればうんと大きくうなずくことはできないかもしれないが、僕の知ってる範囲では先生はちゃんと僕らの事を考えて授業をしてくれたり、困ったときには相談を聞いてくれたりする。僕らの担任もそうだ。僕が少し部活のことで悩んでいた時に、これはあとで知ったとこだが、先生の誕生日だったらしいが、時間をとって話を聞いてアドバイスをしてくれた。だからそんな、恨まれるようなことなんて――


 本当にこの学校で生徒が先生に復讐しようとしているのだろうか。


「いや、私もそう思うよ。もちろん、これはあくまでも仮説の1つにすぎないから考えすぎる必要はないと思う。でも、知らないうちに人は恨んで、恨まれる生き物なんだよ」


「それって、どういうこと……?」


 少しだけ理解が追いつかず、僕はキョトンとなってしまう。

 

「じゃあ、問題。私は誰かに恨またことがあるでしょうか。もしくは誰かを恨んだことがあるでしょうか?」


 急にクイズが始まる。ある意味心理テストにもとれなくない問題だ。僕は逢望さんは誰かに恨まれるような人では決してないと思う。前にも逢望さんがどいうい人かは言った気がするから割愛するけれど、とにかく逢望さんはもちろん逢望さんが持ってるもの100パーセントがいいところってわけではないかもしれないけれど、誰からも憧れるようなそんなすごい存在だと僕は思う。


 じゃあ、恨んだことあるかどうかについてはどうだろうか? 逢望さんがあまり人を恨むような人間には見えない。なんか、その人の悪いところをいつの間にか受け入れてしまっていそうだ。


 だから、どっちも経験がないが本問の正解になるんじゃないか。でも、さっき逢う望さんは人は知らないうちに恨んで、恨まれる生き物だと言った。それの考えに基づくなら少なくとも1つも当てはまるってことを示してるんじゃないか。そういうのなら――


「恨まれたことはないけど、恨んだことがあるが正解……?」


 あまり自信がなかったので、無意識だったが、自然と僕の口調にも現れていた。


 少しの間、時間がまるでこの世から吸い取られたような沈黙が流れる。


「……ブッブー、不正解」


 子供みたいな口調でゆっくりとそう言った。不正解……。


「じゃあ、正解は?」


「正解はね……恨んだことも、恨まれたこともどっちもあるよ。もちろん恨んでる人は君じゃないから安心して。過去の話だから」


 恨んだこともあると言われた時、もしかしたら僕らがこんな事件に巻き込ませたから僕らのことかもと思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。でも、恨んだことも、恨まれたことも……? 少しだけ、信じられない。


「少しだけ、聞いてもらってもいいかな。こういう会話してると、なんか聞いてほしくなっちゃって。たまにない? 自分のちょっと辛かったことを聞いてほしいなって」


「うん、別に構わないよ」


 少し長い話になるのか、逢望さんはカウンターからこっち戻ってきて、本を読むために設置されている4人がけの机に座った。僕も手招きで座れという合図をもらったので、対面になるようにして座る。


 

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