第15話 祭り

 ――あれ?


 ん?


 なんか、元に戻っている? 


 ここはなんか、なんか……。


 僕は……。


 僕は一体――


「なんか少しの間、ぼーとしてたけど、大丈夫だった?」


「えっ?」


 僕は逢望さんに言われて、思わず逢望さんを見る。熱を出した子供を心配するような表情の逢望さんだった。どうやら心配をかけてしまったみたいだ。


「おーい、ってやっても反応しなかったから。どうしたのかなって……」


 さっきのは何だったんだろう。ただの僕の妄想? あれが本当なら僕は今頃、この校舎から地面に落ちているはずだ。でも、確かに自分の体は今ここ――教室にある。さっき感じていた押されたようなものも今では全く感じられない。何だったのかは分からないけれど、僕は変なものをどこかで見てしまったみたいだ。


 だいたいここから押されることなんて……。そういえば変なものを見るまで僕は何をしていたんだっけ……? そうだ、僕が犯したかもしれない罪について考えていたんだった。それで罰を……。段々と少し前の状況について掴めてきた。


「その、プランターのひびなんだけどさ、もしかしたら僕の不注意でやっちゃったかもしれないって気づいて……。だから、少し自分の罪と向き合うためにぼーとしてたかもしれない」


「……。……。別にわざと壊したわけじゃないならたぶん、そこまで罪を負う必要もないと思うけど、先生には今度、言っておいたほうがいいかもしれないね。ごめんなさいって」


「うん、そうする」


 優しくそういう口調で僕のことに向き合う姿。本当に何なのか。逢望さんという人は……。


「それにしても、特に発展するようなものは少しもなかったね。掃除用具庫とか絶対怪しいと思ったのに!」


 まだ逢望さんは掃除用具庫を少し疑っている感じだった。それは申し訳ないけどない。繰り返しになるが僕と流希がやったことなので。


「なんか4人の机にあるとかないかな……?」


「あー、ありえなくはないかも」


 このままだったら何も収穫なしになってしまうので、もしかしたら集められた4人の中の机になにか手がかかりがあるかもしれないと思い、窓側に座っている笛乃さんの机を少し覗いてみた。見た感じは教科書が少し置かれているだけで、これというこれはなさそうだ。でも、念のためもう少し覗いてみよう。


「あの、想之也くん……あまり女子の机を……というかあまり親しくない人の机は安易に見ないほうが……」


「えっ? あ! 確かに、やべ!」


「ちょっといやらしくない?」


 確かに女子とか含めあまり親しくない人の机を覗くのはあまりよろしくないかもしれない。プライバシーの問題もあるし。入ってはないだろうけど、見てはいけな何かが入ってた時、責任は取れない。でも、そんなことよりこの事件というかを解決しようとすることが頭の大半を締めていたため、気づけなかった。


「あ、ごめん……」


 僕は逢望さんに頭をさげて謝罪する。


「いや、私に言われてもな」


「あー、たしかに。じゃあ少し見ちゃったからあの、お返しというかで逢望さん、流希の机、見といて」


「えっ……?」


 たぶん、変な――意味不明な提案をしたというのは自分でもすぐに分かった。でも、こうやらないと釣り合わない気がした。


「それなら私が想之也くんのを見たほうが良くない?」


「僕の机は何も入ってないんだよね。だから意味ないよ」


 教科書とかは基本的にロッカーに帰りに詰め込むので、僕の机の中は今、から状態だ。横にも特に何かがかかっているとかではないので、僕の机を見たところで時間の無駄になるだけだ。


「あれっ……」


 そんな話をしていると、突然笛乃さんの机から、B5ぐらいの紙がひらりと落ちた。ポスターみたいなものだった。僕はほぼ無意識にそれを拾う。


「なんかあったの?」


 流希の机の中を覗いている逢望さんに今、笛乃さんの机の中から見つけたものを見せる。


「あー、これはこの辺でやってるお祭りだねー。私の誕生日と近いからこの祭りの時期が少し楽しみだったりする」


「あ、そういえば、明日が誕生日なんだっけ?」


 前にあの駅の待合室で逢望さんは自己紹介の時に自分の誕生日も言っていたはずだ。僕の記憶が間違ってなければ、逢望さんの誕生日は確か明日だ。


「うん、一応ね」


 どうやら当たったみたいだ。というか、もしかしたら誕生日にこの高校に閉じ込められているかもしれない状況に僕らは巻き込んでしまってるじゃないか。


「前日がこんな状況で本当にごめん。でも、なんでお祭りのポスターなんか机の中に?」


「んー、確かに。あ! もしかしたら、笛乃ちゃんたち、今を描いてるからそのお祭りのどこかで展示するんじゃない? でもまあ、そんなに意味深いものではないと思うけど。だけど、これの祭りって去年中止にったよね」


 このポスターに書かれているのはこの地域で毎年夏にやる大規模な夏祭りについてだ。たぶんこの辺に住んでる人の全員が参加すると言っては過言ではないほどの僕らにとっては一年に一度の楽しみだ。僕も毎年参加しているが、去年は確か祭りそのものが中止となった。それも直前――1日前に決まったことだ。

 

 去年のことだからまだ大体の経緯は覚えている。いつも通り準備が進み学校でも話題になりつつなってきた頃はまだ何の問題もなく、例年通り開催する予定だったが、祭り開催の1日前に、市役所にある手紙が届いたようだ。


『明日から開催される祭りを中止しろ。開催した場合は、事件を起こす』


 そういう内容だったらしい。そのことについては後日、新聞で知った。噂によるとその手紙には続きがあり、もっと詳細な事件を起こす方法や、災厄の場合の死者数などが書かれていたとか、書かれていなかったとか。


 それは一旦置いておいて、祭りはこの一通の手紙により前日にもかかわらず、主催者である市は中止する決断をとった。前日の判断だったということもありもちろん市役所にはクレームが殺到したらしい。これが、この祭りが始まってから歴史上初めての中止となった。


「――あ、そんなことあったね」


 僕が事件の経緯を簡単に説明すると、納得するように逢望さんはうなずいた。今年は去年の中止もあり、例年以上の屋台や、史上最多の花火が打ち上がる予定らしい。


「もしかしたら、そのメールを送った人がこの事件の犯人!?」


 ――いや、その可能性は……


「残念だけど、それは考えづらいかな。この事件の後に残念ながら交通事故で亡くなったらしいよ。もしかしたら事故ではなく自殺の可能性もあるけど。どちらにしろ、もうその犯人は事件を起こせる状況にはないってこと。あと、少し話は外れると、結構有名なニュースになったから逢望さんも覚えてるかもしれないものだけど、犯人はこの街に住む高校1年生だったというね。その高校生はどうやら色々あって不起訴処分になったらしいけど。動機はなんだってけ……『守りたいものが守られなかった。裏切られた』とかよくわからないことを言ってた気がするな」


「そうかー、なんかこの事件についてここから見えてくると思ったけどな」


 確かに犯人はもうそういう事件を起こせる状況にはないけれど、何か見えてくるような気がしなくもない。でも、僕は某有名漫画に出てくる名探偵とかそういうのでもないし、親もそういう関係の仕事をしてる人ではないので、残念ながら見えてこない。

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