妖怪が、とにかく好きで。
…というのも妙な物言いだが、とかく昔の
人々は《得体の知れない事象》に対して
何某かの『理由』を付けた。それを視覚化
しつつ事象に纏わる性質を固定したものが『妖怪』だと理解している。
この作品は、そこに逆説的に斬り込んだ
余りにも魅力的な短編集である。
我々が日常、生活している中で生じた
《得体の知れない事象》は、もしかすると
あの妖怪の仕業では…?そんな視点で
読み進めるが、読み方はきっと人其々に
あるのかも知れない。
実は、この作品を読んだ後に製本された
『夜行奇談』を買った。本には物語ごとに
画図がついている。
だが、51話とコンパクトに纏まっていて、
カクヨムにある、あの『最も怖い話』は
ない。一方でカクヨムには例の『最も怖い
話』を含めた二百三話が載るが、画図は
ない…。ベストなのは両方手元にある事だ
が、兎に角まずは読む事をお勧めしたい。
まさに今、我々が生きているこの世の
中にも、妖怪は棲んでいる。
それが恐ろしい怪異譚として陳列されて
いるのだ。
僕けっこう、
怖いっていう感覚マヒしてると思ってたんです。
いや、ちょっと……ほんと「閲覧は、自己責任で」としか言えない……。
怖い。
ほんと怖い、
怖い。
祟りや心霊系が好きな方には、たまらないです。もうほんとう、たまらない。
でも、中盤……読んではいけない(気がする)話があるんです。
不意打ちだったんですよ、怖い。
あの話を読まれた皆さん、……ご無事ですか?
何気ない日常、ぬぅっと浮かぶ、怪。
見知らぬ土地、あとをつけてくる、ぶきみな何か。
『得体』を伏せられていても、なんとなく『解って』しまう。
ズゥン……と頭が重くなってきて、息苦しくなる。
真夜中に読むと、外の物音にいちいち反応してしまう。
はあ、怖い。
怖かった…………。
ところで、ひとつ気がかりが……、
作者さん音沙汰が無いんですけど、ご無事でしょうか……。
何とも無いよと、全力で「否定」してほしい。
《得体》が知れない、理解の及ばないものほど怖い。
それは人間の本能にじわりと浸みこむ、旧い《恐怖》です。
昔は山や森だったところがいつのまにやら都会となり、無機質な高層建築が建ちならび、都市部からは深夜であっても明かりが途絶えることはなくなりました。科学の進歩にともなって、人知では解明できないこともひとつ、またひとつと減り続けています。かつては《得体》の知れなかったものもいまでは、そのほとんどが解明され、恐れるに足りないものに変わり果てていきました。
されどまだ、影がなくなったわけではありません。
人知という光の当たらない、暗い領域は確かに存在し続けているのです。光が強くなればなるほど、その片隅で影は濃くなるものなのですから。
暮らしの影にひそんでいる《得体》の知れないもの。それらの、息遣いやうごめきを、どこか曖昧に、されどその気配まで感じ取れるほどつぶさに書き記したのが、こちらの《夜行奇談》です。
どこにでもあるような日常の影から這い寄る、輪郭のない恐怖の群。そのどれもがその怪異を体験した人物の口から語られます。由縁や経緯が綴られているものもありますが、総じて杳として《得体》は知れません。
故に怖い。
正直カクヨムでこれほど怖い話に遭遇するとは思いも寄りませんでした。夏とは言えど、怖すぎる。眠れなくなりそうなほどです。
怖いものが好きなあなた。そんなことは現実には決して起こらないだろうというあなた。《得体》の知れない恐怖を是非一度、体験してみてください。
様々なことがあきらかになった現代とは言えども、明かりの裏に影があるかぎり、あなたの側にもいつ《彼ら》が現れるかもわからないのですから。
夜のコンビニ、留守番中の自宅、バイト先の更衣室、駅のホーム、マンションのエレベーター……そんな日常の延長上の場所で遭遇した奇妙な体験談を集めた短編集。
体験談という形式上、怪異を目撃した語り手が死んだり殺されたりするという派手な展開はないものの、淡々と語られる恐怖体験の数々は、我々が日常で訪れる場所が舞台ということもあって後を引く怖さを残します。
また一つひとつの話が独立しているようでいて、作者の追記によれば本作は何らかの仕掛けが仕込まれているらしく、作品に隠されている「何か」の正体を探しながら読んでみるのも面白いかもしれませんが、もちろん何も考えずに普通に読んでも充分怖さを味わうことができます。
ここ最近は暑い日が続きなかなか寝苦しい日も多く、そんなときは寝る前に本作を数編読んでみると涼しい心地になれるでしょう。
もっとも今度は違う理由で眠れなくなるかもしれませんが……。
(四字熟語っぽいタイトル四選/文=柿崎 憲)