《得体》の知れないものほど怖いものはない

《得体》が知れない、理解の及ばないものほど怖い。
それは人間の本能にじわりと浸みこむ、旧い《恐怖》です。

昔は山や森だったところがいつのまにやら都会となり、無機質な高層建築が建ちならび、都市部からは深夜であっても明かりが途絶えることはなくなりました。科学の進歩にともなって、人知では解明できないこともひとつ、またひとつと減り続けています。かつては《得体》の知れなかったものもいまでは、そのほとんどが解明され、恐れるに足りないものに変わり果てていきました。
されどまだ、影がなくなったわけではありません。
人知という光の当たらない、暗い領域は確かに存在し続けているのです。光が強くなればなるほど、その片隅で影は濃くなるものなのですから。

暮らしの影にひそんでいる《得体》の知れないもの。それらの、息遣いやうごめきを、どこか曖昧に、されどその気配まで感じ取れるほどつぶさに書き記したのが、こちらの《夜行奇談》です。
どこにでもあるような日常の影から這い寄る、輪郭のない恐怖の群。そのどれもがその怪異を体験した人物の口から語られます。由縁や経緯が綴られているものもありますが、総じて杳として《得体》は知れません。
故に怖い。

正直カクヨムでこれほど怖い話に遭遇するとは思いも寄りませんでした。夏とは言えど、怖すぎる。眠れなくなりそうなほどです。
怖いものが好きなあなた。そんなことは現実には決して起こらないだろうというあなた。《得体》の知れない恐怖を是非一度、体験してみてください。
様々なことがあきらかになった現代とは言えども、明かりの裏に影があるかぎり、あなたの側にもいつ《彼ら》が現れるかもわからないのですから。

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