第47話 開戦
ユアとレーナが討伐隊を率いて進軍している頃、サナはトルギス王国の貴族たちから助力を得て軍を編成していた。
全員がユアと戦わなればいけない状況になっている中、要だけは気乗りしていなかった。
「この戦いは避けられません。わたくしたちが平和に暮らすためには戦って勝つしかないのです」
誰が見ても分かるくらい気を落としている要にサナは活を入れる。
「頭では分かっているんですが、どうにも気持ちが追いつかなくて……」
サナの前では取り繕う必要もないので、要はありのままを伝える。
「王女様。いえ、ユアさんに想うところでもあるのですか?」
サナは離反したことを示すためにかつての呼び名を改め、あえてユアと言い切る。
そして、この期に及んで要の心の中に他の女の影があることが許せなかった。
「今もユアさんを仲間と思っているかもしれないです……」
自分のことなのに要は自信なさげに言う。
結婚式の後に要の体も心も全て手に入れたと感じていたサナだったが、少しでもユアに肩入れをする可能性があるのを無くさなければと考える。
「わたくしと、二人の将来の子供の為に戦いましょう」
サナは自分のお腹を摩りながら言い聞かせる。
直ぐに妊娠する訳でもないが、子供をだしにして要に立場をハッキリさせるように促す。
「そう、ですね。僕はサナさんの為に戦いますっ」
将来産まれてくるであろう子供のことを想像して要は覚悟を決める。
三日後、サナが率いるトルギス王国軍とユアとレーナが率いるオルフェウス王国軍は対峙する。
そのまますぐに戦闘は始まらず、各軍の代表者が両軍の中間にある交渉のテーブルに着く。
お互いに主張が真っ向から食い違っているので交渉が決裂するのは火を見るよりも明らかだが、戦争の習わしとして事前に要求を伝え合う体裁は保たなければならない。
「要様、一刻も早くお会いしたかったです。それとサナさんもお久しぶりです」
オルフェウス王国軍の代表として護衛のレーナを引き連れて来たユアは要に笑顔を向けて言葉を掛ける。
そのついでと言わんばかりに、吐き捨てるようにサナにも挨拶をする。
「お久しぶりです。その、このまま戦わずに国へ帰ってもらうのはできないですか……?」
要は断られるような気がしながらも、ユアに要求する。
「それは要様も一緒に私と来てくれるのですか?」
ユアは手を要に差し伸べながら質問を返す。
「それはできません……。僕はサナさんとトルギス王国で暮らすと決めました」
前髪に隠れている目を覗かせながら、要は意志をユアに表明する。
若干おどけなさはあるものの、守る存在の居る男の顔つきになっていた。
「夫である要様のおっしゃる通りです。ユアさんの元へは行かないそうですよ?」
サナは要の腕に身を寄せるだけではなく、自分のモノだと誇張するために夫という部分を強調させて勝ち誇ったようにユアに告げる。
「それはどうでしょうか? この戦いが終わる頃には私の元へ帰ってきますよ」
サナの言葉に対してユアは挑発で返す。
ユアは表面上は余裕たっぷりの表情だが内心は憤りを感じており、トルギス王国軍に勝利した後にはどのようにしてサナに罰を与えようかと思考するのであった。
「どいつもこいつも勝手な事ばかり言うだけではないか! 要殿、ワタシが必ず迎えに行くからなっ」
まるで要を自分の所有物のように言い切るサナとユアに痺れを切らしたレーナは、交渉用に用意されたテーブルを殴りつけて破壊した。
そして、敵軍の立場にある要には近づけないので、自らの目的を大きな声で宣言する。
「えーと……」
しかし、レーナに関する記憶を封印されている要は、知らない人に連れて帰ると言われても困るだけであった。
その反応が悔しさを増長させ、レーナは口から血が出るほど歯を食いしばる。
こうして、最初から形だけの交渉は決裂し、遂に両軍がぶつかるのである。
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