第20話 奪われる日々

アイギスは自分の体から魔力が無くなっていた。

魔女としての生命を絶たれたアイギスは、唯一の生きる意味を奪われて絶望する。


「これからどう生きればいいの……」


今さら後悔しても遅く、奪われたモノは戻ってはこない。



そして、魔力が失われたのは対価の始まりに過ぎなかった。



「え、右手が動かない……。まさかっ」


アイギスが魔力を失ってから一ヶ月後、次は右手の感覚が奪われた。

右手首から先は全く動かせなくなったことで、アイギスは対価の全容を理解する。


アイギスに課せられた対価とは___一か月ごとに大切なモノを奪われていくことであった。


十五歳の少女にはあまりにも重すぎる罰であった。



魔法の失敗により、命や再起不能の後遺症を患う者は魔女に珍しくはなく、何かあっても自己責任が魔女の習わしである。


そのため、アイギスのことを助けようとする者は一人も居なかった。



それから半年後、アイギスは両足の感覚を奪われて歩くことが出来なくなっていた。

これ以上奪われないように天才と称される頭脳を使って対価について調べ回っていたが、ベットの上から動けなくなってわずかな希望すら潰えた。



「ごめんなさい。ごめんなさい……」


謝ったところで現状が変わるはずもなく、一人でただ朽ち果てる時を待つのみであった。



さらに月を重ねるごとに、左手や嗅覚なども失っていく。



次は何を奪われるのだろうという恐怖にアイギスの精神が耐えられなくなる。



「もう、いやぁぁ!! これ以上何も失いたくない!!!」


まだ奪われていない声で泣きわめく。

この叫びを聞くためにケンタウロスは最後まで声は奪わないつもりであった。




さらに半年後、アイギスは声意外には右目の視覚と左耳の聴覚以外に何も残されていなかった。


恐怖から解放されるために自ら命を消そうと考えるも、体が動かないのでそれを実行する手段がなかった。


しばらく食事をしていないのにアイギスが飢え死にしないのは、ケンタウロスが生き長らえさせているからであった。

一滴でも多くの負の感情をアイギスから搾り取るためである。



対価を支払い続けてから一年が経過し、アイギスは十六歳になった。

既に要が勇者として召喚され、仲間を探し始めている。



そして、要が魔女の里へとやってきた___

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