異世界を救ったから日本へ帰りたいのに、ヒロイン達が全力で邪魔をしてくる

富士町ペンシル

第1話 祝勝会をしていたら、ゲートが閉じてしまった。

魔王を消滅させた後、その場に次元の歪が生じた。

次第に歪はゲートの形に変形し、要が転移してきた時に通ったものと同じになった。

これでようやく日本に帰れると安堵した要はさっそくゲートの方へと歩き始める。


「じゃぁ、僕は使命を果たしたので帰ります」

要は淡々と要件を言い放つ。


「待ってください! お別れ会を兼ねて祝勝会でもしましょう?」

ユアは要を引き留めるために必死に知恵を絞りだして提案をする。


「ようやく日本へ帰る手段が見つかっので、早く帰りたいです」

こちらの世界に居る理由がなくなった要は日本へ帰りたい気持ちで胸が一杯だった。

それを聞いたユアは、自分よりも日本へ帰ることを優先されたことで泣きたくなるほど悲しい気持ちになるが、それは想定内のことであった。

なので、要が断れない方法で祝勝会に参加するように予め仕向けることにしていた。


勇者パーティーを陰から支えていた住民たちが、きちんと見送くらせて欲しいと要にお願いをしたのであった。

こうして、押しに弱くて流されやすい要はしぶしぶ祝勝会に参加することになった。




「はい、これ」

祝勝会が始まってからアイギスはずっと要の隣をキープし、料理やお酒を持ってきたりしていた。

アイギスは要を酔い潰し、帰るまでの時間を先送りにしようと企んでいた。

この企みは狡猾な作戦を立てることが得意なユアの発案である。

そのため、要に取り分ける料理はお酒が飲みたくなるものばかりであった。


「うぅ、ちょっと視界がフラついてきた……」


アイギスの努力が実り、要は順調に意識を刈り取られていた。

その火照った体を支えるようにアイギスは体をべったりと密着させて幸せな気分を味わっていた。

普段のぶっきらぼうな表情からは想像も付かないほど、ニヤついていたのは誰も知る由もない。


一方、アイギスとは逆側の要の隣には専属メイドのサナが陣取っていた。

朦朧とした意識の要の耳元で何やら囁ていた。


「サナ可愛い、サナ愛していると復唱してください」



「サナぁ、かわいい。サナあいしてる……」


何を言わされているのか理解が出来ないまま、要は操り人形化していた。


「よくできました」

深層意識に植え付けるように、その後もサナは要の頬を撫でながら何度も言わせ続けていた。



その頃、オルフェウス王国の剣とも呼ばれている近衛騎士団長のレーナは、ゲートを何度も剣で斬りつけていた。

皆が祝勝会に参加している中、ユア発案の要を帰らせないための作戦を実行中である。


「こんなものがあるから、要殿は帰るなどと言うのだ! こんなもの壊してやるっ」

普段の凛とした騎士姿はなく、愛に狂った女としてゲートを壊すため剣を振るっていた。

レーナの固有スキルである斬ったモノの魔力を吸収するのを利用し、徐々にゲートを小さくしていた。




次の日、祝勝会が行われた場所には酒や料理が散乱していたり、地べたで寝ている人が居たりなど祭りの後状態になっていた。

要は目を覚ますと、二日酔いからくる頭痛に耐えながら身支度を整えてゲートの方へと歩いて行った。

パーティー仲間として濃い時間を過ごしたユアたちへお別れの言葉は、内面的な性格なので言う勇気は持ち合わせていなかった。




その代わり、今まで過ごしてきた思い出を噛みしめながらゲートまでの道のりを歩んでいった。

そして、要は絶望することになる。



「えっ、ゲートが消滅している……」


確かに昨日までゲートあった場所に居るのに、そこには魔力の痕跡すら消滅していた。

魔力量的に1カ月はゲートが閉じることがないと判断したから祝勝会に参加したのに、取り返しのつかない事態になってしまった。



そして、そこにはゲートを壊すために全力を尽くしたレーナが横たわっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る