第13話 二つの策謀
レーナが両親を部屋から追い出した後、要に現状を話し始めた。
どうやら、レーナは”王国の剣”と称されるサウスガンド家と対をなす”王国の盾”であるドクナー家長男のカート・ドグナーと十歳の時に婚約をしていたのであった。
王も両家の基盤がより強固になることを喜んでおり、当時のレーナ自身も貴族同士の結婚は親が決めるのが当たり前と疑いもしていなかった。
しかし、要と出会ったことでレーナの未来は変わった。
必ず要と結ばれたいレーナはこの婚約を利用し、望む結果に繋げることにした。
「―――という訳だ。だから、この婚約を破棄するために要殿はワタシの婚約相手になって欲しいのだ」
レーナがこの機に乗じて要に告白をした。
普段は騎士らしく凛としているレーナは、上目遣いで女らしさを出しながら言う。
「すみません。レーナさんは大切な仲間と思っていますが、恋愛対象として考えたことはなかったです……」
振られてしまいレーナは気を落とすが、想定内であった。
それに要にはこれから愛されてもらえばいいだけと前向きに考えていた。
「いや、もちろん。婚約相手のフリをするだけで良いのだ。ドグナー家との婚約を解するには真に愛し合っている要殿と結婚するという筋書きが必要なのだ」
もし、先程の告白を要が受け入れてくれればそのまま結婚し、そうでなかった場合は予め要が断りにくい筋書きを捻りだしていた。
「な、なるほどですね。僕の方こそ勘違いしてすみません……」
勘違いではないのだが、レーナによってそう捉えるように仕向けられた要は恥ずかしさで顔が熱くなっていた。
「ワタシの父親は特段まっすぐな性格でな。だから、ワタシたちが愛し合っていないと分かれば婚約解消の手伝いはしないだろう」
「はい、レーナさんに話を合わせればいいんですね」
レーナにとって最高に都合の良い形に周囲が騙されていった。
順調に進む計画にレーナは物言えぬ不気味さを感じていた。
レーナに事情を聞き終え、ヨセフとローズが再び部屋へと入ってくる。
そして、先程の疑問を解消するためにヨセフは真剣な面持ちで要に問いかける。
「要君は本当に娘を愛しているのだな?」
「えーと……」
レーナに協力すると決めた要であったが、これまでの人生で恋人が居なかったので、ヨセフの問いに肯定することが気恥ずかしさで言い淀む。
「はい、と言うだけで良いだのだ。さぁ、早く!」
要の隣に座っているレーナは、肘で要を突きながら両親には届かない声で催促する。
「はい……」
少し吹っ切れたようにヨセフとローズに要は言い切った。
「そうか、そうであるか!」
ヨセフは要の答えに満足し、表情が緩む。
「孫が楽しみですねっ」
ローズも数年後には見れるだろう孫を想像しながら、二人を祝福する。
「うむ、要殿との子供なら絶対に可愛くて強く育つだろうな!」
レーナは将来を妄想してローズの言葉に拍車をかける。
今回の一件を利用し、レーナは本当に要から愛されて結婚するつもりなので、嘘を言っている自覚は微塵もないのである。
しかし、ここまで順調に進んでいたレーナの計画を阻む動きが王都で始まっていた。
「要様、あなたが結婚する相手は私なのですよ?」
ユアは傍に居ない要に語り掛けながら、現状をひっくり返すための準備をしていた。
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