第12話 知らない内に結婚することになっていた……。
「あれ、ここ何処だろう……。それに体中が痛い」
要は目を覚ますと、知らないベットに寝かされていた。
それに加え、海上の城から離れるまで無理のある態勢で鞄の中に詰められていたので、全身が筋肉痛になっていた。
「要殿! 目を覚まされたかっ。安心してくれ、ここは私の実家だ」
ベッドのすぐ横にある椅子に腰かけ、レーナは要が目覚めるまで待機していた。
海上の城から抜け出してから、既に三日経過している。
中々意識を取り戻さない要の様子から、手刀の力加減を間違ったとレーナは反省していた。
だが、そのおかげで要の寝顔を堪能できたと喜んでもいた。
「どうしてレーナさんの実家に居るんですか?」
要は気絶させられた事により、その前後の記憶が消し飛んでいた。
そのことに勘付いたレーナは前から練っていた計画を実行することに決めた。
「そうか、忘れてしまったのか……。実は―――」
レーナが自分の都合の良いように要に事情を説明しようとすると、部屋の扉が勢いよく開かれ、整った容姿の男性と女性が入ってくる。
「おぉ! レーナ、無事だったか!!」
「元気そうでよかったわ!」
部屋に入るなり男性と女性はレーナに駆け寄り、抱きしめながら身を案じる言葉を放つ。
「どうしてここに!? 今は王都で仕事中だったはずでは?」
「そんなの抜け出すに決まっているだろう? レーナが私たちにとって最優先事項だからな」
男性の物言いに何も言い返せないレーナは、普段のレーナとは真逆の反応であった。
そんな三人だけの空気にどうすればよいか戸惑っている要に、自分の両親だとレーナは説明をする。
「おっと、見苦しいところを見せてしまったな。私はレーナの父、ヨセフ・サウスガンド。こちらが妻のローズだ」
レーナに要が居ることを指摘され、急いで身なりを整えながらヨセフはローズの分も合わせて自己紹介をする。
レーナの父も王国の騎士であるため、厚い胸板にガッシリとした体つきである。
それに対し、妻のローズはどちらかというと中学生のように幼いと要の目に映った。
「はじめまして。幾瀬要です」
要は緊張から名前だけを言う自己紹介になる。
普段から気の利いたことを言えない要は、大人相手だとより一層顕著になってしまう。
第一印象を悪くしてしまったと落ち込む要だが、ヨセフとローズの反応は予想外のものであった。
「そうか! 君があの要君かっ。娘を頼むよ!!」
ヨセフは要の肩をガッツリと掴み、気迫ある声で言う。
ヨセフを知ってから少ししか経っていないが、レーナよりも実直な性格だなと要は感じていた。
「レーナを幸せにしてくださいね」
ローズは要の目を見つめながら、お淑やかに告げる。
「えーと……」
要は状況を理解していないので浮かない表情をしていると、ヨセフも同じような表情をする。
「要君はレーナと結婚するのだろう?」
要に事実確認するようにヨセフはハッキリと述べた。
「私たちの大事な一人娘です。道のりは険しいですが、私達はあなた達の味方ですから」
ローズは目を潤ませてレーナと要を交互に見やりながら言う。
「一体、なんの―――」
「あぁぁぁ! 要殿は疲れている。記憶も混濁しているので、今は父上と母上の言っている事がピンとこないのだろう。だから、今は休めせてあげないとっ」
要の言葉をかき消すためにレーナは声を荒げる。
そして、それらしい理由をまくし立てるように言いながら両親を部屋から追い出す。
こうして、知らない内に要はレーナと結婚することになっていたのである___
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