第11話 レーナ、動き出す
要が外出をした一件があってから数日が経過した。
以前とは違い、城内の中は不穏な空気が漂っている。
その原因はユア達の恐ろしいまでの要への執着心を見せられた使用人達が、要を外へ逃がして罰せられないために監視するようになったからである。
「ねぇ、知ってる? 例の門番が鉱山で五年間の強制労働送りにされたんだって……」
「失態をしたらどうなるかの見せしめだってさ」
使用人たちがヒソヒソと噂話をしている。
その話題に上がっている人物は要を外へ出した門番の男性である。
実はあの一件の後、門番は解雇された上に噂話通りの罰を受けていた。
「あら、何か面白いお話でもしているのですか? 私も混ぜていただけませんか??」
噂話をしている使用人たちの背後にユアが忍び寄り、にっこりしながら言い放つ。
「い、いえっ。あの……仕事の話をしていただけです」
聞かれたくない相手に噂をしている場面を目撃され、使用人たちの頭の中は真っ白になりながらもなんとか取り繕う。
使用人たちはユアの心証を悪くしたら、自分たちも鉱山で強制労働になると恐れていた。
「そうですか。くれぐれも取り返しのつかない失態だけはしないでくださいね?」
「は、はい……」
暗に要を逃がしたら許さないとユアは釘を刺した。
その勧告によって使用人たちはさらに要の監視を厳しくしようと思うのであった。
だが、すぐに要はまた外へ出ることになる。
ユアが城内の監視の目を強化するため、使用人たちの気を引き締め回っている頃、要の部屋にレーナが来ていた。
「いきなり大事な話があるって何ですか?」
要と二人きりになれる頃合いを見図り、要の部屋に押し掛けたレーナは重大な相談があると話を切り出していた。
「ワタシなりに将来のことを考えて、やるべきことが分かったのでな」
勘違いとはいえ、要が傍から居なくなってしまうと感じたレーナは今のままでは駄目だと考えていた。
「もしかして、実家に帰るとかですか?」
「ん!? その通りだっ。やはりワタシたちは通じ合っているのだな」
言葉にしなくても真意を汲み取ってくれたと思ったレーナのテンションは上がる。
しかし、実際はそうでは無い。
レーナが大きな鞄を持ちながら要の部屋にやってきたので、その様子から要が予想しただけであった。
「少し寂しくなりますね」
実家へ帰る前に挨拶をしにきてくれたと思った要は、冒険でのレーナとの思い出を懐かしんでいた。
「要殿にとっては死を共に乗り越えた仲間であるからな。ワタシからしたらライバルであったがな」
後半部分は声が小さくてレーナが何を言っているのか聞き取れなかったが、要は「その通りですね」と相槌をうつ。
「それならこの大きな鞄を持ってくる必要も無かったな」
そう言いながらレーナは持ちこんだ鞄を開け、その中身が空であることを要に見せる。
「これから荷造りをするのですか? 僕も協力します」
「ん~。確かにその方がスムーズにいきそうだな。では、この中に入ってくれ!」
レーナは鞄を開け、中へ入るように要を促す。
レーナの荷造りを手伝おうと申し出た要は、鞄の中に入るように指示されて唖然とする。
「すまないっ。少々窮屈だが我慢してくれ」
「荷造りをするのに、どうして僕が鞄の中に入るんですか……」
レーナが冗談を言うような性格ではないことを熟知している要なので、余計に発言に不信感を覚えた。
「ワタシの実家に二人で行くためであろう?」
「え?」
「ん?」
レーナが説明するも、さらに意味が分からくなった要は愕然とする。
レーナの方も、通じ合っている筈の要がそのような反応をしている訳を分かってはいなかった。
しかし、他の女性達が二人きりの時間を見過ごす訳がないと知っているレーナは強硬手段をとることにした。
「これも要殿のためである。許してくれっ!」
謝罪を述べながらレーナは要の首の側面を手刀で打ち気絶させ、意識を失った要を持ってきた鞄の中へと入れる。
「次に目覚めた時は、幸せが待っているぞ」
レーナは気持ち良さそうに眠っている要に言い、愛おしそうに要の顔を見てから鞄の口を閉じる。
そして、レーナはその場を後にする。
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