第14話 決別

レーナが要を連れ去ってから数時間が経過した頃、城内はざわついていた。

要の姿を一時間ごとにユア達に報告するように徹底されていた使用人たちが、その任を果たせなかったからだ。



「それで最後に要様を見たのはいつですか?」


ユアが使用人たちを大広間に集めて情報収集をする。

その切羽詰まったユアの様子に使用人たちは怯えている。


下手な発言をしたら罰せられると思っている使用人たちは、恐怖で何も言えないのである。

そのことすらお見通しのユアは甘言を使うことにした。


「少しでも有益な情報を提供した者は、お咎めなしです」


その言いぐさから、ここが助かる最後のチャンスだと使用人たちは理解した。

助かる道があると知った使用人たちは、我先にと口を開き始めた。



そして、要の部屋からレーナが大きな鞄を伴って出て行き、そのまま城の外へ出たということが分かった。


「要様の部屋から、その日着用している衣服以外のモノは無くなっていませんね。お出かけ用のポーチも机の引き出しの中に入れたままです」


要の所有品やその在処まで全て記憶しているサナは、ユアとアイギスに伝える。

このことから突発的に要は居なくなったということが分かった。


「最新の要の足跡が部屋の中になっている」


アイギスは痕跡を辿る魔法を使用し、その時の情報を伝える。


「予想通りですね。犯人はレーナで決まりですね」


ユア達はこの場に居ないレーナが犯人だと大方気付いていた。

連れ去った方法を含めて断定するために大がかりな捜索をしていたのである。


これまでの情報を整理し、ユアはレーナが要を鞄に入れて連れ去った事実まで辿り着いた。


「この局面で裏切るとは残念です。これも野生の直感で成功すると確信してのことでしょうか」


サナは頭脳で行動するよりも直感を頼りにするレーナを褒めたたえるような皮肉を言う。

ユアとは真逆で、予測のしづらいレーナをサナは苦手としていた。


「でも、これで一人脱落させることが出来る」


アイギスの発言にユアとサナは同調する。

要を自分だけのモノにしたい女性達はお互いを蹴落とそうと目論んでいるが、一時的に協力関係になれる例外があった。

それは、抜け駆けをした相手を排除するときである。



「レーナとは小さい頃からの付き合いでしたね。お別れがこんな形になるなんて残念です……」


ユアは目を瞑りながら、幼少期にレーナと遊んだことを思い出す。

感傷に浸って友人との決別を悲しんでいるように見えるが、ユアの口は笑っていた。

これでライバルを一人蹴落とせると内心では考えているからである。


大事な友よりも要への愛が遥かに上回っていたのであった。




「そういえば、レーナ様はカート様と婚姻関係にありますね」


有名な話なのでわざわざ伝える必要はないが、言葉の続きをユアに言わせるために思い出したかのようにサナは発言する。



そして、サナの発言の意図を汲み取ったユアは愉快そうに次の一手を指し示す。


「カートとレーナを結婚させましょう」

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