第15話 訪問者

「おぉ! とても似合っているぞ、要殿!!」


「そうですか……」


要はレーナにタキシードをとっかえひっかえ着させられていた。

カートとの婚約解消はまだ出来ていないが、レーナは待ちきれずに要との結婚式の準備を進めている。


要にタキシードを着せるのに夢中になっているが、レーナは自身のウエディングドレスも色々と試着し、その度に要から感想を貰っていた。


「これは要殿の好みだろうか?」


「はい、似合っています……」


女性の扱いになれていない要から気の利いた誉め言葉は出ないが、それでもレーナは満足していた。

何度目のやり取りか分からないほど、要に綺麗な姿をレーナは見せつけて楽しんでいる。


そんな中、屋敷に二通の手紙が届いた。

一つ目はカートからのものである。

レーナの屋敷へカートが直接出向いて話をしたいという内容である。


「はぁ、まったく。要殿とワタシの間にカート殿が入る隙など無いというのに」


カートはレーナの二つ上の二十歳である。

そのため昔から兄のように優しくしてくれていたのだが、今となっては邪魔な存在とレーナは感じていた。


そして、もう一通は王からの手紙である。

その手紙には、直接王都へ赴いて事情を報告するようにとの命令であった。

ヨセフ経緯から王へは婚約解消の話がされているが、当人たちからの説明も欲しいとのことであった。



数日後、事前の連絡通りにカートがレーナの屋敷へやってきた。


「また一段と綺麗になりましたね」


屋敷に入るなり、レーナを本心から褒めたたえる。

鍛え上げられた体にも関わらず爽やかな容姿をしているカートに言われれば、並大抵の女性は頬を染めるだろう。

しかし、レーナはその限りでは無かった。


「そんな事を言うために来たのではないのだろう?」


少し過剰なくらいにレーナは他人行儀に言う。

カートとは何もないということを要にアピールするためである。



「その通りです。私はレーナ嬢が愛した要殿を見定めに来ました」


カートは心からレーナを愛しているので、要殿を選ぶというのなら身を引く覚悟を持ち合わせていた。

そのためには、要がレーナを幸せにできるのか見定める必要があると考えていたのである。



そして、カートは目線をレーナから要に移して決意のこもった声で告げる。


「要殿が私よりもレーナ嬢を愛していれば素直に身を引きます。だが、そうでなければ婚約解消は認めません」


「わかり、ました……」


カートの覚悟に気圧されるも、レーナのために乗り切る覚悟をする。



「どのように証明すればよいのですか?」


具体的に何をすればカートが身を引くのか分からないので、要は率直に尋ねる。


「レーナ嬢と普段通りに過ごすだけで構いません」


特別なことをする必要はなく、普段通りの要のレーナへの接し方で愛を推し量るつもりである。

本当に要とレーナが恋人なら難しいことではないが、そうではないのでいつも通りの恋人らしい触れ合いは存在しない。


話し合いと書かれていたので、周囲を欺くための恋人らしい演技の打ち合わせは無かった。



「心配はいらないぞっ ワタシに合わせてくれれば問題ない!」


レーナは要にそっと耳打ちをする。

この機に乗じてレーナは要と合法的にイチャつくつもりであった。



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