第16話 愛の証明
「うん、こうして二人で歩くと気分が晴れるな!」
「はい、いつも通りですね……」
サウスガンド家の広い庭園を要とレーナは腕を絡ませながら散歩していた。
それを見張るかのようにカートは少し離れて後ろから付いていく。
「要殿、もう少し体をくっつけではどうだ?」
「やりすぎではないですか……?」
女性と過度な触れ合いに抵抗がある要はたじろいでしまう。
「ほら、カート殿が見ておるのだ」
カートに二人が愛し合っていることを証明するという免罪符で、普段は要に受け入れてもらえないお願いをレーナは突き通すのであった。
庭園をゆっくりと歩き終わる頃には昼時になっていた。
「そろそろ昼食を一緒に作ろうっ」
レーナの一言で、要とカートは屋敷の厨房へ移動する。
いつもは料理人が昼食を用意してくれるので、普段はこの場の誰も料理などはしない。
「僕、料理はできないですよ」
カートに聞こえてはまずいので、レーナだけに聞こえるように要は言う。
レーナが料理をしているところを見たことがないので、要は余計に心配になっていた。
「あぁ、そのことなら問題ないぞ?」
要の予想を良い意味で裏切るように、レーナは自信たっぷりに答える。
その自信の裏には、貴族の娘として一通りの花嫁修業を積んでいたからである。
修行には料理も含まれているため、レーナは十分な料理技術を持ち合わせていた。
実際に調理が始まると、手際よくレーナは進めていく。
その様子を傍観しているだけの要は、自分が厨房に居る意味がないのではと感じていた。
しかし、レーナがこの機会に乗じて調理をすることには狙いがあった。
「はい、要殿。あーん!」
味付けの工程まで調理が進行すると、レーナはスプーンでスープを掬って要に食べさせようとする。
新婚の夫婦がやるようなイチャつき方に要は耐えられる訳もなく、顔を真っ赤にしてレーナの行為を受け入れようとはしなかった。
その一幕を見ていたカートはあまりの不慣れさ加減に目が留まり、思わず口を出してしまう。
「本当にいつも通りの日常なのですよね?」
実はカートは二人の仲を疑っていた。
レーナの要に対する愛は本物だと誰が見ても分かるのだが、要がレーナを愛しているとは思えないでいるのであった。
「ほら、いつも通り口を開けてくれっ!」
ずっと要とやりたかった沢山ある妄想の一つを叶えるために、レーナは積極的であった。
「これも仲間のため……」
要は自分に言い聞かせて、流れに身を任せる覚悟を決めた。
その後もレーナからのアプローチは続き、要は羞恥心に耐えながら受け入れるのであった。
このようにしてカートを欺くための一日が過ぎていった。
そんな二人の熱いやり取りを一日中ずっと見ていたカートだったが、要のレーナに対する愛が感じ取れていなかった。
そのため、最後にカートは試練を与えることにした。
「要殿がレーナ嬢への愛を証明してくださいませんか? それを見れば私は納得します」
レーナから要への一方的なまでの愛は確信したが、その逆が無いことにカートは勘付いていた。
「僕はレーナさんをあ、あい……してます」
慣れない言葉にたじろぎながら要は言い切ったが、言葉だけではカートの疑念が解消されることは無かった。
「男なら行動で示していただきたい。そうですねぇ、私の前でキスをしてください」
カートは常識外れなことを言っている自覚はあるが、自分がレーナを諦める為にも決定的な証拠が欲しかった。
それに観察していて要が女性に対して奥手なことは分かっていたので、キスが二人の仲を証明する踏み絵になると考えていた。
「それぐらいいつも通りのことだ」
レーナは降ってきた幸運に歓喜する。
要の首に手をまわしてキスをしようとするが、カートに制される。
「要殿からレーナ嬢にキスをしなければ意味がありません」
いつもは自分からグイグイと攻めるレーナは、要から行動を起こしてくれる機会に心が高鳴る。
そして、レーナはキスのために目を閉じる。
レーナが要の方を向いて目を閉じたことで、キスをすることの意思表示がされたことを要は悟る。
もう引き返せないところまできており、キスをすれば大切な仲間を救えるところまできたと要は腹をくくる。
「レーナさん……」
レーナの名を呼びながら、要も目を閉じながら顔を近づけていく___
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます