第17話 忍び寄る黒い影

要が口をレーナに近づけていき、二人の距離がゼロになる瞬間___


「もう十分ですっ」


カートがこの場の空気をさますように、声を荒げた。



「要殿の愛は証明されました。私は身を引き、陛下への証言もしましょう」


要がポカンとした表情でカート見ると、次第に荒々しさを収めながらカートは告げた。

これでレーナの目的は達成されたと要は思うのであった。



「チュッ」


要の頬にレーナがキスをした。

カートの発言を聞いた要はキスを中断していたので、いつまでも要からのキスがこないレーナは我慢ならず、結局はいつも通りに自分から行動を起こしたのであった。


「れ、レーナさんっ!?」


数秒前まではレーナにキスをする決意をしていた要であるが、その必要がなくなり気を抜いているところに不意打ちを食らったことで慌てふためく。


「ワタシ達にとってはだろう?」


口付けをお預けされたレーナは不満を解消するために頬で我慢するとにした。

このことにカートを引き合いに出されると要は反論もできないので、泣き寝入りするしかないのであった。



カートが要とレーナの仲を認めた数日後、ドクナー家とサウスガンド家の婚約解消の報告を陛下にするべく、カートは一足先に王都へ赴いていた。


カートが陛下との謁見の順番待ちのため待機室に居ると、国民から聖女と呼ばれるくらい慕われている女性が入ってくる。



「お久しぶりでございます。ユア様」


直ぐに席を立ち、カートはユアに礼をする。


「お元気そうで何よりです。今日はアナタにお願いしたことがあって此処に来ました」


国民が期待する聖女の皮を被りながらユアは話す。

その内に秘められた欲望に検眼のあるカートさえ悟ることは叶わない。


「私にできることなら何なりとお申し付けください」


「では、予定通りレーナと結婚しなさい」


カートの従順な姿勢に満足しながらユアは普段の柔らかい口調ではなく、あえて語気を強めた。

表面上はお願いとは言いつつも、これは強制命令だと含みを持たせるためであった。



「し、しかし……」


カートはユアから放たれる突き刺さるような圧力から、自分の知っている王女とは思えないでいた。

要とレーナの仲を応援すると決めたカートは相反することをユアに言われて八方ふさがりになってしまう。



「だって、要様はレーナを愛してはいないもの。本当は___」


ユアはカートに真実を都合よく伝えた。

王女という権力ある人物からの言葉に加え、ユアの洗脳にも近い話術によって、カートはレーナと結婚しなくてはと考えを改めるようになる。




そして、婚約解消の事情説明をするための王からの招集により、要とレーナは謁見の間へ足を運ぶ。

謁見の間に入るとカートの姿があり、事前に陛下へ話を通してくれたのだろうと要とレーナは安心する。


―――が、玉座へ視線を移して驚愕する。



「ずっと会いたかったです。要様」


陛下の横にユアがたたずんでいた。

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