第18話 対峙

「何故、ユア王女がここに……」


レーナが動揺を隠しきれずに心の声が漏れる。


「それはアナタが一番分かっているのでは?」


レーナに問いかけられた訳ではないが、漏れた疑問にユアが冷たい眼差しで答える。


「その、陛下にレーナさんとカートさんの婚約解消の件で呼ばれてるんです……」


ピリついた空気を感じ取った要は、この場を変えようと本題を切り出す。

本来は機転を利かせられるような性格ではないので、どうしても自信なさげな声になってしまう。



「はい! そのことは把握しています。長旅お疲れ様です」


ユアはレーナへ向ける態度とは180度異なり、要に対してはニッコリと明るく声を掛けた。



「ワタシは要殿と結婚するためカートとの婚約を解消いたします」


場の空気が少し和らいだことを確認したレーナは、タイミングを逃さない内に本題に入った。

流石のレーナも陛下の前では男勝りな話し方ではなく、騎士団長の頃のように畏まった口調になる。



「ならぬ」


玉座に肩肘をつきながら、高圧的にユアの父であり王のハンジは言う。



「何故でしょうか……?」


陛下の意見に水を差すような真似は恐れ多いと感じつつも、レーナは譲れないモノのために勇気を振り絞って問う。



「ユア王女から、要殿とレーナ嬢は愛し合っていないと本当の事を聞きました」


カートがハンジの代わりに答える。

ユアが絡んでいることで、全て知られていると分かったレーナは焦りを覚えた。

その様子を見ながら、カートはさらに続きの言葉を述べる。


「そして、要殿が本当に愛しているは___ユア王女ということも教えていただきました」


王族の言葉が絶対であると数百年単位で信じて仕えてきたドクナー家は、ユアの言う事が全て真実になる。



「な、そんなことはっ!?」


あまりにも突然のことでハンジの前ということも頭から抜け、レーナは平常心を失う。

そして、助けを求めるかのようにレーナは横に居る要の方を向く。



―――が、要はそこにはいなかった。



「アイギスが要を迎えにきた」


レーナは声のする後方を見ると、そこにはアイギスと魔法で眠らされた要を抱きかかえるサナが目に入った。


「要様を奪われる気持ちが分かりますか? 胸が苦しくて心が空っぽになるのですよ。でも、これからレーナ様も理解していただけると思いますが」


要を奪われた日々を過ごしたサナは、レーナに憎悪を剥き出しながら責め立てる。


「まぁ、皆さんのお気持ちも十分理解できますが、レーナを責めるのはこれくらいにしましょう」


ユアがパンっと両手を叩き、この場を納めるために注意を集めながら言う。

アイギスとサナの言動から、要と引き離されると絶望していたレーナはユアの言葉に救いを求める。



「だって、レーナさんはこれからカートと結婚するのですからっ」


ユアはとても要には見せられないような悪魔のような笑みを浮かべながら、レーナに絶望を叩きつけるのであった。

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