第21話 共同生活

要が魔王討伐の仲間を探すために魔女の里に足を踏み入れると、魔女たちは魔法を極める良い機会だと思い、我こそが仲間にふさわしいと立候補する者たちで溢れかえった。



「で、では、一人ずつ得意魔法を見せてください……」


自分を中心に人だかりが形成されたことにより、おじけづきながらも仲間を選定する方法を提示した。



「わが敵を切り裂く風よ___」


かまいたちのように遠くの的を風の刃で切り裂く者。



「豪華の炎よ、全てを燃えつくせ___」


足場をマグマに変える者。




要は魔女の里にやってきてから日が暮れるまでに五十人以上の魔女の魔法を見たが、仲間としてピンとくる魔女は現れなかった。



「今日はここまでにします……。どこか空き家などはありませんか?」


完全に日が落ちたこともあり、要は残りの二百人以上も居る魔女の選抜の続きは明日にすることにした。

そのため魔女に里に留まる必要があるので、要は空き家を探すことにした。



「それなら、西側の端に空き家がありますよ」

「あー、そういえばあそこの魔女は亡くなったんだっけ?」

「もうずっと見かけないし、里の外に出たのではないかしら」


魔女たちが口々にした家には誰も住んでいないので、要は滞在場所として使わせてもらうことにした。


そして、教えられた家に要は入ると、目を疑う光景があった。



「だれ……?」


ベットに息苦しそうに横たわり、かすれた声で突然の訪問者に言葉を掛けるアイギスが居た。


「すみません! まさか人が住んでいるとは思わず……」


要は謝罪をして急いで家から出ようとしたが足を止めた。

様態の悪い人をこのまま見過ごすことはできなかったのである。



「何か僕にできることはありませんか?」


引っ込み思案の要だが、病人の前では看病しなくてはという気持ちが勝っており、いつもより積極的な態度になっていた。


そんな要にアイギスは、ずっと望んでいたことをお願いする。


「アイギスを、ころして……」


誰も寄り付かない家に到来した最初で最後の苦しみから解放されるチャンスだとアイギスは感じていた。


「なんで、そんなことを言うんですか……?」


あまりのお願いに要はアイギスに問う。



「アイギスは、二年前に___」


苦しさから言葉が途切れながらも、アイギスは召喚魔法を行使した時から始まった悪夢について洗いざらい要に話した。

そうすれば、同情心から願いを叶えてくれるとアイギスは思っていた。



「そんなことって……」


予想もしなかったアイギスの絶望の日々に要は言葉を失う。



「だから、お願い。アイギスを殺して」


狙い通りに同情心を誘えたので、背中を押すように再度アイギスは要にお願いをする。

だが、アイギスの思い通りにはならなかった。



「僕に一か月時間をくれませんか? その対価を支払う呪いを解けないか試させてください……」


これ以上残酷な時間を延ばさないのもアイギスためと考える部分も要にはあったが、それは最後の手段としてだった。



「もし一か月でダメだったら、その時はアイギスを殺して」


アイギスは要が今すぐには殺してくれないと分かって気を落とすが、この期を逃せば殺してくれる相手に心当たりが無いので条件付きで提案を受け入れた。




「まずは体を綺麗にしましょう」


アイギスは長い間お風呂に入れなかったので体が汚れていた。

そのことに気が付いている要は、普段は女性相手に言えないことだがズバズバと切り込んでいくのであった。


「え、いや、その……」


出会って間もない男性に裸をさらすことに戸惑うアイギスだが、要はそんなことを気にせずに水が入った桶と布を家の中を探して準備をする。



「冷たいかもしれませんが、体を拭きますね」


大半の体の感覚を失っているアイギスは冷たいと感じることはなかったが、その代わりに裸を見られた羞恥心で一杯であった。


無言で体を拭かれていく空気に耐えられなくなったアイギスは、どうしてここまで自分の面倒を見てくれるのか尋ねた。



「病気で寝たきりの妹が居ました。アイギスさんに妹を重ねているのかもしれません」


「それで妹はどうなったの?」


「亡くなりました」


要が日本に居た頃、寝たきりの妹の介護を毎日のようにしていた。

妹が一日に起きていられる時間は少ないので、その時間が孤独にならないように常に傍に居た。

要の両親は既に事故で亡くなっていたため、自分が妹の傍にいなければ妹に寂しい思いをさせてしまうと考えていたのであった。



アイギスが要のことを知りたくて質問を次々にしてくるので、結局は妹についてすべてを話していた。



「はい、全身拭き終わりました。新しい服を持ってきますね」


なので、そこには普段の人見知りの要はおらず、かつての世話焼きだった兄としての要になっていた。


アイギスを妹として見ているので、この時の要には恥じらいなどは微塵も存在しないのである。



こうして歪な二人の歪な共同生活が始まるのであった。

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