第36話 幸せな生活

「サナ様、馬車の準備が整っております」


森の奥から馬車を引き連れてきた黒づくめの集団がサナに言う。



「あなた達はサナの私兵ですね……? 自分たちが何をしているのか分かっているのですか??」


ユアはサナが呼び出した不気味なオーラを漂わせている集団の正体を言い当てる。

そして、要を攫うことが国家への反逆罪にも等しいと忠告をする。



「フォルマー家は王家ではなく、勇者に忠誠を誓っているので無駄です」


サナはユアの脅しに堂々と反論をする。

サナの家系であるフォルマー家は国家よりも勇者を優先することを認められているので、ユアの脅しには屈しなかった。




サナはこれ以上ユアに話すことは無いので、この場から脱出するための呪文を唱える。



すると、眩い閃光が一気に照射され、ユアとその使用人や護衛達は視界を奪われた。



「待ちなさい!」


ユアは目を閉じ、要を乗せた馬車が遠のいていく音を聞いて叫ぶことしか出来なかった。


絡め手などの頭脳戦では負けなしのユアはサナに出し抜かれた状況だが、何故か頬を歪ませていた。







数日後、要はフォルマー家の領地にあるサナ専用の屋敷に居た。

要だけの部屋は用意されておらず、サナと共有の部屋で生活をしている。


「要様、おはようございます。今から朝食を作りますので、少々お待ちください」


要とサナは同じベットの上で寝ており、ここに来てからサナは要よりも先に起きて最愛の人が起きるまでの横顔を堪能するのが日課となっていた。



「はい、ありがとうございます」


要は逆らえる状況ではないため、サナの逆鱗に触れないように従順になっている。




朝食の準備を終えたサナに呼ばれ、要は食堂へと移動する。

主従の契約を結んでいるため、逃げることはないので要に拘束具などは付けられていない。



「今日は要様が好きな魚料理がメインです。わたくしが食べさせてあげますね!」


要が頼みもしていないのに、サナは介護のように要の世話を過剰に焼いている。


「いつも食べさせてもらうのは悪いので、自分で食べます」


サナの気を悪くしないように、要は自分で食事を摂りたいという要望を伝える。


「なりません。夫の食事を手伝うのも妻の役目です」


強く否定されれば従者である要は逆らえないので、しぶしぶと従うしかない。

それに加え、最近のサナは要のことを夫と呼び、自分のことは妻と呼ぶようになっていた。



「わたくしが居ないと何もできない体にしないといけないですしね……」


サナは自分が口まで運んだ料理を要が一生懸命にモグモグと食べている様子に癒されながら、過剰に世話を焼く本当の理由を要には聞こえない声で囁くのであった。




そんな可愛い要に少しだけ困らせたくなったサナは質問をする。


「いつ、わたくしに手を出してくださるのですか? 子供の名前を一緒に考えるだけは満足できないです」


「え、いや。その、それは……」


この手の話題が苦手な要は顔を真っ赤にして慌てふためく。


「わたくしはいつでも準備ができていますよ?」


実は要とサナの間には未だに体の関係は無かった。

一刻も早く要と交わりたいとサナは考えているが、あくまでも要から求められたいという乙女心があった。


そのため、サナは要を襲わないように我慢して理性を保つ夜を過ごしている。

その代わりに将来産まれてくる二人の子供の名前を要に考えさせることで欲求を紛らわしていた。




「その前に結婚式ですね。準備は着々と進めておりますので、要様も食後は衣装の試着などをしてください」


食事が終盤に差しかかった頃、サナは要にとって爆弾発言をするのであった。

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