第37話 平穏な日常

要は試着室で着せ替え人形のように色々な衣装をフォルマー家のメイドによって着替えさせられていた。

その様子をサナはじっくりと穴が開くくらい見つめている。


「よくお似合いです!」

「さすがサナ様の旦那様になられるお方です!!」


要はメイドたちに着替えさせられる度に褒められていた。


着替えを担当しているメイドたちはサナが率いる暗殺集団としても活動するくらい戦闘力も高く、サナからの信頼も得ていた。

ユアと使用人たちの関係性とは異なり、サナとメイドたちの間は意外にも良好なのである。



「ありがとうございます。というか、さっきから服のサイズが最初から僕にピッタリなのですが……」


本来なら試着する際に裾上げや丈詰めをする必要がある。

だが、その必要性がないことに疑問を持った要は尋ねた。



「はい、隅々までわたくしが手で確認しておりますので。常に最新のサイズを把握しております」


サナはどこか誇らしげに答える。



「え、いつですか……?」


身に覚えのないうちに採寸をされていてると知り、要の疑問はさらに深まる。



「もちろんベットの上です。要様が寝静まってから毎日体を確認しておりますので、触ったことのない部分はもうございません」


サナは当たり前のことを教えるように告げる。

要の体の暖かさや感触を思い出してサナの体は火照っていた。


全てという言葉に思わず要は自分の男性である特徴の部分を見下ろす。



その要の視線に気づいたサナは肉食動物のように口から涎を垂らしながらボソッと一言漏した。


「大きかったです」




そんな衝撃的の事実を知らさせてからの要は、どこか体が汚れた感覚に陥りつつも結婚式の衣装選びは進められていくのであった。





要に続いてサナの衣装選びも終えた後、二人で下町を歩くことになった。

サナは妄想の中でしか出来なかった要とのデートを実現させていた。



下町なので平民の大人や子供がおり、日がまだ照っている時間なので活気がある。


サナが要に胸を押し付けるように腕を絡ませて歩いていると、小さな少女が目の前でこけた。


「う、うわぁぁぁん」


足を擦りむき少しだけ血がでた少女は痛みで泣き叫ぶ。


すると、サナは少女に歩み寄って擦りむいた足を手当する。


「これで大丈夫です。足元や周囲には気を付けて行動をしてください」


「うん、お姉ちゃんありがとう!」


サナに手当をしてもらった少女は泣き止み、お礼を言う。



一連の様子を隣で見ていた要は、子供の安全を気遣うサナに戸惑いを覚えた。

魔女の里で見た本性を現したサナと、大切な仲間として良く知っていた世話焼きのサナのどちらを信じてよいのか分からなくなっていた。



「お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人なの?」


元気になった少女は二人に子供ならではの純粋な質問をする。



「半分正解です。近いうちに結婚して夫婦になります」


「へぇー。お兄ちゃんはこんなに優しいお嫁さんを貰えて幸せだね!」


「そうですね……」


声のトーンが少し低くなったが、要は作り笑顔で少女に返事をする。


何も知らない少女は要が恵まれた環境に居ると思っている。

自分も少女のようにいっそのこと何も知らなければ複雑な気持ちにならずに済んだのにと要は考えるのであった。




もしかしたら、昔のサナに戻ってくれるのではないかと要は心の奥で感じ始めていた。

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