第35話 勝者
道中は特にトラブルもなく、要を乗せた馬車は魔女の里の中にある儀式を執り行う場所へ到着した。
「お待ちしておりました! 私に黙って居なくなるので、寂しかったです」
ユアは要に逃げられたことが悲しいという事と、連れ戻せたことの喜びを伝える。
「アイギスと離れることは出来ないの。だから変な気は起こさないで」
アイギスは何があっても最終的には自分の元へ要が帰っていることを疑っていなかった。
そのことを要に確認させるように言い聞かせる。
そして、要はアイギスが描いた主従の契約の魔法陣へと移動させられる。
「あの女の命は、要様のわたくしへの忠誠心の大きさで決まるという事をお忘れなく」
サナは要を魔法陣の中心へと運ぶ際、耳打ちでヘレンを人質に取っていることを再度警告する。
拘束されて逃げることの出来ない要を配置に付かせてから、ユア、アイギス、サナは要を囲むように移動する。
「我らを主とし、
アイギスがケンタウロスの角を懐から取り出し、満月の光を利用して主従の契約を発動させるための呪文を唱え始める。
その様子をユアは口角を上げて眺める。
「今です。やりなさい」
アイギスが呪文を唱え終わる瞬間、ユアはアイギスの後方に潜ませていた護衛に合図を出す。
すると、護衛はアイギスが足元に置いていたケンタウロスの角を魔法陣の外へ蹴った。
「それが無いと__!?」
テンションがいつも低いアイギスだが、この時ばかりは焦って取り乱す。
「ケンタウロスの角が無いと、アイギスさんの魔力は空っぽになりますねっ」
ユアは我慢していた笑いを堪える必要がなくなり、高笑いをしながらアイギスに言う。
ケンタウロスの角は術者の代わりに魔力源として使用するものであり、それが無いと術者が主従の儀で必要な大量の魔力を全て負担することになる。
「あぁぁぁっ!」
魔力を急激に消費する苦痛からアイギスは叫び声を上げる。
呪文を唱えたので主従の儀を中断することが出来ず、術者であるアイギスから一気に魔力が失われていく。
急激に魔力が失われたことでアイギスは気絶して地面に倒れる。
魔力は生命活動に必要なため、殆ど魔力が空になったアイギスの体は防衛本能で冬眠状態のようになったのである。
「お疲れ様でした。もう、用済みです」
意識が無く倒れ込んでいるアイギスにユアは冷たく言い放つ。
アイギスは天才と称されるだけあって一人で主従の儀を執り行える魔力を有しているので無事に主従の儀は発動した。
しかし、その代償として魔力が殆ど空になってしまった。
「自力で目を覚ますことはありませんね」
サナがアイギスを見下しながら呟く。
植物のように僅かな魔力しか持っていない所では魔力は溜められないという性質があるため、サナの言う通りアイギスは外部から一度に大量の魔力を注がれない限り自力では目を覚ますことは不可能である。
「綺麗です、要様……」
ユアは役目を終えたアイギスへの関心を捨て、一目散に要へ歩み寄る。
そして、要の首筋に刻まれた従者の紋章を眺めてうっとりとする。
今のユアは最愛の人を自分のモノにした征服感で気持ちが高揚している。
「仲間にまで手を出すのですか?」
あまりの所業に要はユアに問わずにはいられなかった。
「要様の愛を三分の一しか得られないのは我慢できないのです……」
主が三人になれば、要を思いのままにできる機会も減る。
そのことがユアにとっては耐えられないのであった。
「___ということなので、要様は私が貰いますね。要様、こちらの馬車に来てください」
ユアは要を独り占めにするという意思をサナにも伝える。
そして、ユアは自分の馬車へ来るように要に命令し、逆らえない要は素直に従う。
「わたくしも同意見です。要様、こちらに来てください」
サナはユアの意見に同調し、そのうえで自分の元へ来るように要に命令する。
要は歩行転換し、サナの方へ歩く。
「要様? こちらです。私の所に来てください!」
ユアは一向に自分に従わずにサナの方へ向かう要を何度も呼び止める。
「見ての通りです。さようなら、王女様」
サナは自分の隣まできた要の腕に恋人のように絡みつき、ユアに向かって勝利宣言をするのであった。
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