第34話 諦め

拘束されて抵抗することが不可能な要をサナはしばらく抱き締め続けた。

その間、サナはこれ以上ない幸せを感じていたが、儀式を行う場所へ移動するので自身の胸に顔を埋めさせている要を一度離す。



「魔女の里に向かう前に、あの女を消しますか」


要を馬車へ運ぶ前に、要に余計な知恵を入れ込んだヘレンを始末しようとする。



「待ってください。ヘレンさんを殺さないでください……」


要は口を塞がれてはいないので、ヘレンを始末しにいこうとするサナを必死に呼び止める。



「要様はあの女に騙されているのです。洗脳魔法を掛けられていると思いますので、術者を殺して解除するしかないのです」


要が自らの意志によってサナ自身を非難するのはありえないと思っており、そうさせたヘレンを許すつもりは無かった。

それに要が傍から離れたのは本当に操られているとも思い込んでいるのであった。




「お願いです。ヘレンさんを殺したら、僕はサナさんを許せなくなります」


要の言葉にサナはたじろいでしまう。

もし、このままヘレンを殺して洗脳を解いたとしても、魂に憎しみの感情だけは残してしまうかもと恐れている。



「ヘレンさんを治療して安全な場所へ逃がしてくれるなら、僕はサナさんの言う事を聞きます」


悩むサナを見て、ヘレンを殺さない方に決断をしてもらうためにダメ押しの一言を付け加える。


その言葉を聞いたサナは、素直に言いなりになるという提案が魅力的すぎてヘレンの方へ歩いていた足を止める。


「本当ですね? なら、主従の儀式ではわたくしへの忠誠を一番大きくしてください」


サナを含めたユアとアイギスが要の主として契約を結ぶが、必ずしも忠誠心が綺麗に三等分される訳ではない。


契約を結ぶ瞬間の要の意志によって、それぞれの主たちへの忠誠心の優先度が決まってくるのであった。


当然、忠誠心の大きい主からの命令を最優先で聞くことになる。



「分かりました……」



この状況ではどのみち自分は助からないと悟っている要は、ヘレンだけは助ける為にサナの提案を受け入れた。



そして、サナはヘレンを近くの都市の病院へと運び届け、その過程を要にも見せた。




「要様、わたくしのことを愛していますか?」


要との約束を果たしたサナは、魔女の里へと向かう馬車の中で要に膝枕をして頭を撫でながら質問をする。



「はい……」


ヘレンに危害が加えられる可能性を減らすため、要は肯定するしかなかった。



「ふふ、知っています。わたくしも要様のことを愛しています。何があっても要様の傍から離れませんからね」


要の返答に気を良くしたサナは饒舌になる。



要は残りの人生を望まない相手からの愛を受け入れなければならない現実に打ちひしがれるのであった。



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