第3話 それぞれの目的
五人にはそれぞれ目的があった。
要は説明するまでもなく、日本へ帰ることである。
問題は女子達の目的であった。
なぜなら、要の日本へ帰りたいという目的と相反するからだ。
確固たる意志で要をこちら側の世界へ留めようとしている。
(要様をこちらの世界へ留めるための第一段階はクリアですね)
ユアはゲートを壊したことで要が手の届かない場所へ行かないことに一安心していた。
海上の城を用意したユアには戦闘力こそないが、権力や金に加えて頭脳がある。
その頭脳を駆使して要を何としても自分だけのモノにしようと企んでいる。
(アイギスと絶対に離れない魔法があればいいのに)
表情の変化が普段から少ないアイギスは、密かに新しい魔法を開発することを考えていた。
他人に興味のないアイギスだが、要だけには執着していた。
(これからは要殿のためだけに剣を振るおう)
要を見つめながら、若干重たい気持ちを抱いていた。
代々オルフェウス王国に仕えてきたサウスガンド家の長女であるレーナは、一族の使命として王国に仕えることが当たり前だと思っていた。
そんなレーナが自らの意志で王よりも大切な存在がこの数年で出来ていた。
初めて自らの意志で主を選んだ結果である。
(さてと、共通の目的のために王女様たちと協力しましたが、時期を見計らって排除しないとですね)
冷酷なオーラを常に纏っているサナの内心はさらに冷たく、目的のためなら手段を選ばないとう気迫である。
そして、女性達はそれぞれ次にやるべきことを心に誓うのであった。
(((他の女性を排除しなくては))))
そんな飢えている女性達に重大なミッションを迫られることになる。
「僕は精神的にも疲れたので、あの部屋で寝ます。今後はその部屋を使うことにします」
要が自分の部屋を決めたのであった。
一見、ただ部屋を選んだだけの行為と思うかもしれないが、女性たちの目は獲物を見つけた野獣のように光っていた。
なぜなら、要と隣の部屋になれば親密になれる機会が増えると考えているからだ。
要は角部屋を選んだため、その特典が得られるのは一人だけである。
広大な城なので各々の部屋までの距離は二十メートル程離れているので、生活するうえで隣の部屋であればすれ違いなどの接触イベントが発生すると期待している。
それに、隣の部屋だから間違えて入ってしまったと強制的に親密度を上げるイベントを起こせると計画しているのであった。
「では、私はこちらの部屋を使いますね」
ユアは当たり前に要の隣部屋を指さしながら言った。
その一言で、女性たちは議論を始めることになる。
「いえ、わたくしは要様の身のお世話をする身ですので、隣部屋はわたくしが適任かと思います」
サナは論理的に主張する。
「それならば、要殿の騎士であるワタシの方がよいだろう」
サナの論理にレーナが乗っかてきた。
サナは自身の論理を利用されたことが不服で、誰にも届かない声量で舌打ちをした。
「揉めているようだから中立のアイギスが隣部屋になる」
あくまでこの場を納めるためという理由で、アイギスはそそくさと要の隣部屋に入ろうとする。
「「「まった!」」」
しかし、そんなことで騙されるようなメンツでもなくあっさりと止められてしまう。
「はっきりと言いますね。ここは私が用意した要様と私の新居ですから、優先権は私にあるとおもうのですが」
いくら説明をしても折れる者など居ないと、これまでの冒険を通してユアは理解していた。
なので、理屈で攻めるのは辞めて権力を振りかざすことにした。
「そんなことを言うのなら、要殿にはワタシの屋敷に来てもらうしかないな」
裏表無く言い放つレーナの言葉にユアは顔を歪めた。
レーナはまっすぐな性格であるため、言葉通りに行動するだろうと分かり切っていたからだ。
そうなれば、せっかく城に閉じ込めることが出来た要を逃がしてしまう可能性があるとユアは考えている。
「仲間割れをするのは辞めましょう。目的は同じなのですから」
心の中で「今は」とユアは囁き、最悪の事態にならないように協力関係を保つことにした。
「どうするのですか? 誰も譲る気はないので問題は解決しないと思いますが」
そう言うサナ自身も絶対に要の隣部屋を譲る気など無かった。
「そうですね。要様に決めていただきましょう。それなら誰も文句も言わないですね」
サナはその言葉を待っていたかのようにユアの提案に賛同した。
サナの口角は誰にも気取られない程度にニヤッと上がっていた。
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