第4話 サナとの出会い
ユアの提案に全員が納得した。
なぜなら、それぞれが絶対に自分こそが要に選んで貰えると確信していたからであった。
その中でも、サナは選ばれる確固たる根拠を持っていた。
それは、要が召喚された二年前の時、当時の要はサナと同じく十五歳であった。
異世界での十五歳はちょうど成人する歳であったため、サナは婚約を迫られていた。
その相手は親が決めた貴族であるため、愛などは存在しない。
しかも、サナのフォルマー家は代々勇者に仕えてきていたのだが、二百年くらいは勇者召喚がされていないため、役目を果たせていないフォルマー家の立場的は弱まっていた。
その結果、四十代のボナー男爵家の後ろ盾を得るためにサナは売られたのであった。
財政力があるボナー男爵はフォルマー家が半世紀は暮らせるような額と引き換えに、若くて穢れの知らない美しい容姿のサナを手に入れることにした。
ボナー男爵の悪趣味は有名なため、飽きるまでサナをむさぼりつくし、自分のおもちゃにすると誰もが分かり切っていた。
「私は誰のために生きていたのだろう。顔も知らない勇者のため?」
サナは自分がこれまでに努力してきた勉強や家事スキルなどを思い返しながら、人生の意味を見つけ出そうとしていた。
名前も顔も知らない勇者のためにしてきたことが遂に無駄に終わると知ってしまう。
そして、遂にボナー男爵へ引き渡される日が来た。
ボナー男爵家へ馬車での移動中、ひとけのない森に入るとゴブリンの群れを引き連れたゴブリンキングと遭遇した。
御者と少数の護衛は瞬く間に殺され、唯一の女であるサナだけは生き残った。
いや、生き残されたのであった。
ゴブリンは種族関係なく、女性をさらって身籠らせる習性があるからだ。
「どのみち悪名高い貴族に弄ばれるのも、ゴブリンに身籠らせられるのも変わりありませんね」
サナは迫りくるゴブリンの手から逃げようともせず、流れに身を任せようと目を閉じた。
「ギュィィィン」
鼓膜が破れそうな音がサナの目の前でする。
咄嗟に目を開けるが、そこにはゴブリンだったと思われる焼けただれた肉片が散らばっていた。
「えっ、矢が飛んできたのですか……」
よく見ると、そこには鉄で作られた矢が地面に埋まっていた。
誰かが弓を射て自分を助けてくれたのだろうと思い、周辺を見渡すが誰も見つけられない。
そんな中、今度はゴブリンキングが息を荒げて涎を垂らしながらサナへ近づいていく。
ゴブリンキングは先程の攻撃がサナによるものだと勘違いし、明確な殺意があった。
「誰かは存じませんが、助けようとしてくれたありがとうございます。 でも、ゴブリンキングは無理です。どうかお逃げください!」
殺意を感じ取ったサナは、生まれて初めて声を荒げた。
「世の中には自らの意志で人助けをする人が居たのですね」
全ての行動原理が一族の使命であったサナは、死の間際にようやく人間性を獲得した。
そして、ゴブリンキングが手に持っているボロボロの斧を振り上げ、サナは終わりを確信した。
「ズシャン!」
前回よりも大きな光と音がサナの視覚と聴覚を襲った。
次の瞬間にはゴブリンキングの上半身が消し飛んでいた。
目の前で起きたことは単純であるが、サナは死の恐怖から解放された安堵から思考力が鈍って呆けていた。
「あ、驚かせてすみません。ケガとか無いですか……?」
声を掛けられたことで、サナの意識は現実に戻った。
そこには黒髪でスラリとひ弱そうな男性が立っていた。
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