第26話 執念深い二人

要とアイギスが食材を買って家に戻ると、ユアとサナはお揃いの指輪を嵌めていることを見逃さなかった。


「要様、この指輪はどういう意味ですか?」


ユアは怒りを抑えようと取り繕うが、どうしても滲み出てしまう。


「これは僕がアイギスにプレゼントしたんです」



「はい? まさかアイギスさんにプロポーズをしたのですか??」


ユアに追及されたことで要はようやく軽はずみにしてしまった自らの行動を悟る。


「え、いや。これは……」


上手く状況を説明しようと試みるも、要の頭は真っ白になって言葉が詰まる。


要は困り果てていると、もう一人の当事者であるアイギスと目が合う。

要が視線で助けを求めると、アイギスは頼もしく頷いたので要は胸を撫でおろす。



「そう、その解釈で合ってる」


アイギスは要にプロポーズされたとハッキリと肯定した。



「その話、ゆっくりと聞かせてください」


長旅の疲れや空腹など関係なく、ユアとサナは細かく状況を聞くのであった。


約三時間にも及ぶ聴取の結果、要にはプロポーズをしたつもりはなく、全てはアイギスが円滑に仕向けたとユアとサナは理解した。



「それで指輪はどこのお店で購入されたのですか?」


サナは要の手を取り、まじまじと指輪を眺めながら言う。

必要以上に要の手を触りたいよこしまな気持ちも相まって指を絡ませていた。



要は隠すつもりはないので素直に話すとアイギスは気を落とす。

そのことに要は気付く素振りすら無いのであった。





ひと悶着があったので遅い夕食となったが、要はシチューを振舞う。



「やっぱり、これが世界で一番美味しい」


アイギスは懐かしむようにシチューを頬張る。

もはやアイギスにとっては食べ慣れた味であるが、何度食べても美味しいことに変わりはなかった。


「確かに美味しいですね。王宮のどの料理よりも好きです」


ユアは誇張抜きに褒めるが、要は大袈裟な物言いだと感じて照れるのであった。



「今度わたくしに作り方を教えていただけませんか? 二人きりで。」


サナはシチューを手放しで褒めると共に、後半は要にしか聞こえないように耳打ちをする。

二人きりの時間を作りたいという思惑もあるが、要に自分が作ってあげたいとも考えていた。



こうして食卓を囲みながら会話をしていると、要はユアとサナの指に目がいった。


「ユアさんとサナさん、その指に付けているのは……」



「「はい、指輪です」」


ユアとサナは自分の変化に要が気付いてくれたことが嬉しくて、顔を綻ばせながら指輪を見せる。

しかも、要と同じデザインの指輪であった。



「折角、要とペアリングだったのに」


アイギスはユアとサナの指輪を見ながら不満を漏らす。



「アクセサリーをするのは個人の自由だと思うのですが」


ユアがアイギスの嫌味に挑発的な言葉で返す。


「アイギス様の指輪と同じく、装飾品です」


サナは要からプレゼントされたアイギスの指輪には装飾品以上の意味など無いことを強調させながら言う。



ユアもサナも要には醜い側面を見せたくないので、アイギスにだけ分かるような皮肉を飛ばしながら食事は進んでいった。



この時の要は自分が囚われの身にされる計画が水面下で動いているとは想像すらしていない。

しかし、明日の要はその片鱗を見るのであった。

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