第27話 違和感
魔女の里に来てから二日目、明日に備えてユア達は儀式をする場所の下見に行っていた。
要は家に残っているため、ユアが引き連れてきた使用人や護衛の半分は要の監視役として家に居る。
「あのぉ、少しお時間もいただいてもよろしいでしょうか……」
要と歳が変わらなそうなメイドが誰にも聞こえないように要に耳打ちをする。
仕事の邪魔にならないようにブラウン色の髪を後ろで団子のように止めているメイドである。
「どうしたんですか?」
「私はメイドのヘレンと申します。要様にお伝えしたいことがございます」
ヘレンは他の使用人達に聞かれないように声を抑えている。
只ならぬ雰囲気を感じ取った要は、人が居ない部屋に移動してから続きを聞くことにした。
「ここなら誰かに聞かれる心配はないと思います」
「お気遣いありがとうございます。あの、話というのは信じて貰えないと思いますが……。要様はユア王女を始めとしたサナ様やアイギス様から狙われていますっ」
ヘレンは覚悟を決めて要に真実を打ち明ける。
「えーと、もう少し詳しく聞かせてください」
あまりにも突拍子のない切り出し方に要は意表を突かれたが、冗談を言っている様子ではないのでさらに詳しく聞くことにした。
「実は___」
ヘレンはユア達が日本へつながるゲートを消滅させた時から現在に至るまでの全てを要に話した。
その中には明日に控えた主従の契約についても含まれていた。
大規模な準備が必要な関係上、その手伝いをするために使用人にまで伝わっているのであった。
要はユア達の綺麗な面しか見れていないので、ヘレンの話した内容を鵜吞みにはできなかった。
しかし、ヘレンが酔狂で不敬罪に抵触することを言うとも思えないでいた。
「どうして僕に教えてくれたのですか? もし、話してくれた内容が本当ならヘレンさんは重い罪に問われる危険があると思うのですが……」
どうして危険をおかしてまで伝えてくれたのかと、要はヘレンに質問をする。
「私の村は魔王軍の進行で滅ぼされました。私もその時に命を魔族に奪われるはずでしたが、要様が助けてくれました。その恩返しをしたかったのです」
本来なら既に尽きていた命なので、ヘレンは要を助ける為ならいくらでも差し出すという心構えだった。
ヘレンはさらに要に伝えなければならないことを言おうとしたが、家に近づく足音を聞き取り、時間切れとなってしまった。
「ただいま戻りました。あれ、要様?」
家の中に入ったユアは真っ先に要の姿を探して見当たらないので、滅多にしないが声を張り上げる。
ユアの狂気な一面を知っているヘレンはその声が恐ろしくて身を震わせる。
「僕は先にリビングに戻りますね」
「す、すみません。ありがとうございます」
ヘレンの話を事実と仮定した場合、二人で一緒に部屋から出てくるのはおかしいので、要は気を利かせて先にユア達の元に行くことにした。
「姿が見えなかったので心配しました」
要と距離をさり気なく詰め、ユアはお互いの息がかかるくらいまで密着する。
そして、ユアは要から女性の匂いを感じ取った。
「誰かと一緒に居たのですか?」
目の奥を黒くしながら、ユアは要に問う。
「い、いえ。一人でした」
要はヘレンの話だけで少なくない時間を共有してきた仲間を疑うつもりはないが、ユアから感じ取った不気味さから咄嗟に嘘を吐いてしまう。
今までは疑念を向けていないので気付かないだけであって、ヘレンによって意識的にユア達を見ることで要は不気味さを感じ取れるようになっていた。
「どうしたのですか? 顔色が悪いですよ」
要は悪寒が走った後ろを振り向くと、要の気付かない内にサナが真後ろに立っていた。
「要の肩に誰かの髪がある。ブロンズ色の髪?」
アイギスは要の肩からブロンズ色の髪を取り、証拠として見せつけることで要の反応を見る。
勿論その髪はヘレンのものであり、誰にも聞こえないように耳打ちで話を持ち掛けた時に要の肩に落ちてしまったのであった。
後ろめたい気持ちがあった要はヘレンの事が頭によぎり、その一瞬をアイギスは見逃さない。
ヘレンの話を聞いてからの要は、目の前にいるユア達が別人と見間違う程におぞましい狂気をひしひしと感じていた。
仲間を疑いたくない要は疑念を晴らすために質問をすることにした。
「僕がする明日の手伝いってなんですか?」
声の抑揚が少しだけ乱れながら要はユア達に聞く。
「ただの豊作祈願の儀式です」
サナが平然と嘘を言うが、態度には全く違和感はない。
要はヘレンから主従の儀式に付いて事前に知らせていなかったら納得していただろう。
「じゃぁ、主従の儀式って何ですか?」
要の一言にユア達は心を乱すが、それを表情に出すユア達では無かった。
しかし、要はユア達が自分に嘘を吐いていると分かってしまった。
ユア達は上手く演技をしているが、その周囲に居る使用人や護衛達が大きく動揺していたからであった。
こうして、要の疑念は確信へと徐々に変わっていく。
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