第25話 デート

アイギスが思い出を浸り終え、現実に戻ってくる頃には魔女の里に到着した。

そして、そのままアイギスの家へと全員で向かった。


「ひと時とはいえ、要様が生活をしていた家なのですね」


ユアは好きな相手の新しいことを知れて喜ぶ。

どこかに要の痕跡がないのか家の中をジロジロと見渡している。


「もしかして、これは要様が愛用していたコップではないのですか?」


サナも同様に無礼などをお構い無しに家の中を散策し、要関連のモノを収集しようと企んでいた。

要が使用していたモノを見つけて懐に入れようとする度、目を光らせているアイギスに注意をされていた。



家主のアイギスはケンタウロスを要が倒した際にドロップした赤い角を探していた。

赤い角は主従の契約を結ぶ際に供物として使うために必要なのである。


貴重なモノなのでベッドの下に穴を掘り、隠蔽魔法や封印魔法などを重ね掛けして厳重に保管しているので、取り出すだけでも一苦労するのであった。



「よかった。ちゃんと鮮度も保たれてる」


アイギスが自分を苦しめていたケンタウロスの角を大事そうに見つめるので要は不信に思う。


「その角をどうするんですか?」


「大事な儀式に使う。その時も手伝ってほしい」


当たり前だが、主従の契約には要が魔法陣の中心に居なければならない。

本当の事を言えば要であっても協力はしてもらえないので、アイギスはサポートとして儀式に参加して欲しいと事実を捻じ曲げてお願いをする。


「僕にできることならいいですよ」


妹のようなアイギスに甘い要は快く受け入れてしまうのであった。



主従の契約にはケンタウロスの赤い角のような希少な供物に加え、魔力の溢れる土地で満月の夜にしか執り行えないという制約があった。

そのため、二日後の満月の日まで魔力が溢れている魔女の里に留まることになっている。



「久しぶりに要のシチューが食べたい」


この家で一番多く食べた要の手作りシチューの味を思い出したアイギスは要にリクエストする。


「いいですよ。じゃぁ、材料を市場まで買いに行ってきますね」


「アイギスも行く」


ここで要に甘えた日々を思い出したかのように、いつも以上にアイギスは甘えん坊になっていた。


「では、わたくしも行きます」

「私も同行します」


サナとユアが要と買い物をする機会を見逃す訳もなく、同行する意思を表明する。



「それはダメ。魔女の里では魔女以外の女は歓迎されない」


アイギスが二人の鼻っぱしをへし折るように却下する。

その際に述べた理由は嘘ではないが、本当でも無かった。


歓迎されないけど必ずしも居てはいけないというルールなど存在しない。

だが、閉鎖的な魔女の里は滅多に情報が外部へ伝わらないため、ユアとサナは真実を知る由もなかった。



「すぐに帰ってきますので、ゆっくりしていてください」


要にも家に居るように言われたので、ユアとサナは大人しく留守番をすることになった。


二人が顔を曇らせる一方で、アイギスは要との買い物デートの邪魔者を排除することができ、表情には見えずらいが内心ワクワクしていた。




市場まで移動して要とアイギスは必要な食料を買う最中、アイギスはアイテムを販売している店に釘付けになる。


「ちょっと寄って行きますか?」


「うん」


アイギスが行きたそうにしていたので、急ぎではないためアイテム屋に寄り道をすることになった。


魔女であるアイギスはアイテムなどの知的好奇心をそそるモノが大好きなため、要以外の人が見ても分かりやすいくらい目をキラキラさせていた。


数あるアイテムの中、特にアイギスは指輪に目を奪われる。


「このアイテムが欲しいんですか?」


「すごく欲しい」



アイギスは勇者パーティーとして魔王を討伐しているので指輪を購入できる財力はあるが、手持ちが少ないので今すぐに手に入れることは難しかった。


「すみません、この指輪を一つください」


要は店主を呼び、アイギスの欲しがっている指輪を購入する旨を伝える。

買って欲しいとせがまれていないが、要は専属の魔女としてお世話になっているアイギスにお礼としてプレゼントすることにした。


「その……。こっちのペアになっているのも欲しい」


アイギスは少しだけ恥ずかしがりながら、宝石部分だけ色の違う指輪も要に頼む。


「じゃぁ、こちらもお願いします」


値段も見ないまま、躊躇なく要はもう一つの指輪も購入する。

店主が要とアイギスを交互に見ながらニヤニヤしていたことを要は察知することはないのであった。



指輪を購入するなり要はアイギスに差し出すが、一つだけしかアイギスは受け取らなかった。


「もう一つは要がつけて。なるべく肌身離さず」


アイギスはお揃いのアイテムが欲しかったのかと分かった要は、年頃の妹にも似たようなことを言われたことを思い出す。

そんな妹のような行動を微笑ましく感じつつ、要はアイギスの提案を快諾する。


「あと、要がアイギスに指輪を嵌めて」


さらにお願いをするアイギスに対し、今日はとことん甘やかそうと要は決めた。

そして、要は妹に靴下を履かせる感覚でアイギスに指輪を嵌めた。




「おめでとう!」

「あたしも出会いが欲しいなぁ」


一部始終を見ていた周囲の魔女たちが、要とアイギスを祝福する。

魔女は基本的に他人に興味はないのだが、色恋沙汰は別であった。



「一生大事にする」


アイギスは要に嵌めてもらった指輪をジッと見つめながらお礼を言う。


ここまで喜んでくれたので、要は買った甲斐があったと感じる。

要の思考はそこで停止しており、一般常識として男性が女性に指輪をプレゼントする意味についてまで考えが至っていないのであった。

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