第24話 決着

召喚されたケンタウロスは再び呼ばれるのを待っていたかのように、不敵な笑みを浮かべていた。

そして、アイギスの時と同じく要に問いかける。


「ワレに何を求める?」



「奪ったモノ全てを返して欲しいです」


呪いは掛けた本人に解かせるのが一番だと要の考えが至った。


現在までに同じ悪魔に対価を返すように要求した前例は存在しない。

なぜなら、対価を取り返すためにはさらなる対価を要求されるので意味がないという背景があった。


しかし、ケンタウロスに限っては対価を取り返せると要は確信していた。



「よかろう、そのためには対価を支払ってもらう。ワレとどちらかが滅ぶまで終わらない決闘を要求する」


眼光を鋭く光らせながらケンタウロスは告げる。

ケンタウロスは戦いを好む悪魔であるため、強敵を見ると力のぶつけ合いをする習性がある。

勇者である要は、悪魔として高序列の赤い角を持つケンタウロスにとって望む相手であった。



「駄目……。只でさえ強いケンタウロスに赤い角持ちなんて、要が死んじゃう」


アイギスが要とケンタウロスの会話に割って入る。

伝書を沢山読んできたアイギスはケンタウロスの強さを熟知しているので、瘦せ型で戦闘に向いていなそうな要が敵う相手ではないと思っていた。


アイギスに勇者としてではなく、兄としての姿しか見せていなかったので当然の反応であった。



「僕を信じてください。数分後には全て取り戻しています」


要はケンタウロスに向けていた敵意を潜めアイギスの方を向き、兄としての顔で言う。



「んっ……」


アイギスは要を止めようとするも、涙が込み上げて声にならない。


また、自分の為に行動する要を制止することはできないとアイギスは痛いほど理解していた。




場が静まり返り、ケンタウロスと要は戦闘態勢に入る。



「悪を打ち払い魔を滅する弓矢よ、来い!」


要が弓の勇者として与えられた武器を呼び出す祝詞を唱えると、左手に弓を右手には矢が顕現する。



「ウォォォォォォォ!!」


これから始まる殺し合いに高揚したケンタウロスは雄叫びを上げて喜びを表現する。



そして、お互いに力を上昇させていく。



先に動いたのはケンタウロスだった。

右手に出現させた巨大なナタを要に目掛けて振り下ろす。



「逃げてっ!」


要に迫りくる死を拒絶するようにアイギスは叫ぶが、要は動けなかった。


対価として支払った右足が動かないので、回避行動をとることが出来ないのであった。

要の様子からそのことを悟ったアイギスは絶望の底に落とされる。




「両手が動けば十分です」


要は射線に入ったケンタウロスに狙いを定めて矢を射る。


矢はケンタウロスとは対照的な青色の輝きを放ちながら加速する。



「矢ごときで思い上がるなよ、人間」


ケンタウロスはナタを向かってきた矢にぶつける。


力と力のぶつかり合いにより、耳が痛むくらいの騒音が鳴り響く。


二人の力は拮抗していたが、徐々にケンタウロスが矢を押し返していく。



「勇者といえど、これが人間の限界だ」


要は文字通り持ちうる全ての力を一矢に込めたので、地面に膝をついてぐったりとしていた。

力を使い果たした要を確認したケンタウロスは、矢を押し返しつつある状況も相まって勝利を確信する。




「人間をあまりなめない方がいいですよ」


ケンタウロスの挑発的な言葉を返すように要が呟くと、勢いを失いかけていた矢が最初よりも大きな力でケンタウロスを押し始める。



「なんだ、コレは……」


ケンタウロスから余裕の表情が消え、両足で地面に踏ん張りを利かせて矢の威力を殺そうとする。



___が、それは意味を成さなかった。



「勇者がこれ程までとは、聞いてないぞっ」



ケンタウロスの抵抗も虚しく、矢は胴体を穿った。




そして、ケンタウロスは魂ごと消滅する。





一気に力を出しきった反動により、要は地面に倒れる。



「要っ、要……。死なないで!!」


無我夢中でアイギスは要に駆け寄り、抱きかかえていた。


意識は残っていた要は奪われたモノがアイギスに返ってきたことに安心し、今度こそ意識を失った。





そうして二人の長い戦いは終わり、要にベッタリなアイギスが完成されたのであった。

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