第49話 諸突猛進
「駆け落ち……。一体何を言っているのですか?」
要は敵の指揮官という情報以上に素性を知らないレーナからの急な申し出に困り果てていた。
「ワタシは気付いたのだ。忘れられたとしても、また出会うところから始めれば良いのだと!」
レーナは要からの質問に真っ向から回答することはなく、代わりに自らの展望を満ち満ちた表情で言い放つ。
「さっきから何を言っているのか分かりませんが、僕はアナタを倒して戦争を終わらせます」
相手が話の通じる相手ではないと悟った要は矢をレーナに向けて構える。
それが二人の戦闘開始の合図と言わんばかりに、レーナは腰から剣を抜いて要へ詰め寄っていく。
「要殿ぉ! ワタシは騎士としではなく、女として諦めないぞっ」
叫びながらレーナは目で追えないほどのスピードで要の懐へ入る。
要はレーナの予想以上の俊敏な動きに翻弄されるが、矢はレーナに照準を合わせたままバックステップで剣が届く範囲から抜ける。
「矢よ、目の前の敵を穿てっ」
そして、要はレーナが再び距離を詰めてくる前に矢を放った。
目が眩むほどの眩い閃光をまき散らしながら、矢は一直線にレーナの剣へと命中する。
レーナの記憶を封印されている要はレーナに対して特別な感情を抱いてはいないが、なるべく人を殺したくはないという甘い考えから剣を破壊することを選んでいた。
「やっぱり、ワタシの体は狙わなかったのだな……」
レーナは要が傷つけないように攻撃をしてくる理由を、潜在意識で大切な人を攻撃したくないからだと都合よく解釈するのであった。
「ワタシを女にした責任は取って貰うぞっ」
要の攻撃が命中しても折れることの無かった剣を握りなおし、要を目掛けて駆けだす。
その際に周りが誤解するような問題発言があったが、要とレーナの間には肉体関係はない。
あくまでも、男勝りな女騎士であったレーナを女として自覚を芽生えさせたというだけである。
「さっきから変なことを言わないでください。僕には身に覚えがありませんっ」
戦闘中で出るアドレナリンによって気分が高鳴っている要は、普段はしないであろう少し強めな反論をする。
その間も手数を増やし、矢を雨のように降り注がせるがレーナにはかすりもしない。
文字通り雨のように降り注がせる技でかすり傷すら負わせられず、全て躱された経験の無かった要は動揺を隠せないでいる。
「要殿をずっと見てきたのだ。攻撃の癖くらい手に取るようにわかる!」
レーナは言葉通り、危うい瞬間もないまま要に剣が届く距離まで近づくことに成功する。
そして、レーナは刃のついていない側面で要の腹を剣で斬る。
「んっ……」
剣が胴体に当たった要は痛みで声を漏らす。
刃が無いので胴体が斬り割かれることはないが、衝撃によって十メートル以上後方に要は吹き飛んだ。
吹き飛ばされて地面に投げ打たれた要は戦闘態勢に入るために立ち上がろうとするも、肋骨と足の骨が折れており寝たきりのままになる。
要が無防備になっている瞬間をレーナは見逃すはずもなく、チャンスとばかりに要に馬乗りになる。
「あの時の続きをしようではないかっ」
レーナは途中でユア達に妨害された要との結婚式の続きを思い浮かべていた。
あと一歩で要と結婚するという望みが叶うところだった分、余計に悔しさが溜まっている。
その悔しさを晴らす時がきたことを感じながら、レーナは話を続ける。
「要殿はワタシに永遠の愛を誓うか?」
レーナは神父が新郎新婦へ告げる誓いの言葉のつもりで要に問う。
「そんなことは___」
急に知らない相手からの愛の問いかけを要は拒否しようとするが、追い打ちを掛けるようなレーナの言葉に搔き消されることになる。
「ワタシは誓う。よし、これで口上は成った!」
要の意志を無視し、レーナは愛の誓いが成されたと思い込む。
そして、要が躱す暇もなく、レーナは要に口づけをするのであった。
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