第44話 残酷な本性

要が召喚されてから時が経ち、基礎訓練もそろそろ終わりに近づいていた。


ナターシャは側仕えとして要にべったりとくっついており、魔族を根絶やしにするように要の深層意識に刷り込みをしていた。


というのも、ナターシャはザスケスの密偵であり、要を魔族を滅ぼす道具にするようにと命令を受けているからである。




「基礎訓練が終わったら、以前に行った街へ遠征しにいきます」


いつからか要は口癖のようにナターシャに言うようになっていた。


「はい、要様のご活躍を期待しております」


その言葉を聞く度に要を戦地へ送ることが出来るとナターシャは内心ほっとしていた。



「ナターシャさんの故郷もすぐに取り戻せるように頑張ります」


要は自分を追い込む意味でも、魔族の侵攻によって滅ぼされたナターシャの故郷を取り戻すと宣言する。


「ありがとうございます……」


要が少しでも早く実戦に行くように仕向けるため、ナターシャはかつて人類の領地であり、今は魔族の領地として奥深くにある街を故郷と偽っていた。


その際には孤児であるナターシャには存在しない家族も侵攻によって殺されたと同情を誘う作り話もしていた。



そして、基礎訓練が終わってからの要は、王都へ帰る暇もなく戦地を渡るように戦いに身を投じるのであった。








数か月ぶりに王都へ帰る頃には、要の目は死人のように覇気が無くなっていた。

そんな要をユアは心配して出迎える。


「こんなになるまで……。要様、もう戦わなくても良いのですっ」


精神的にも疲弊しきっている要を王都で出迎えたユアは、要の乾いた心を潤すように言葉を掛ける。



「もう少しです。このまま一気に魔族を滅ぼしましょう!」


しかし、戦地から一緒に付き添ってきたナターシャはユアとは対照的に要を一刻も早く戦地へ戻そうとする。



「はい……」


要は自分でもどちらに返事をしているのか分からないが、機械のように相槌を返すのみである。



そんな要の姿にユアは居ても立ってもいられなくなり、どうすれば現状を変えられるのか考えを巡らせる。



持ちうる全ての人脈や経験などを思い浮かべながら、一つの答えを導き出した。




「お食事の用意は整えております。まずは英気を養ってください」


ユアは要にニッコリとした笑顔で次の行動を促す。

思考を停止している要は言われるがままにユアの提案通りの行動をする。




「あ、待ってください。ナターシャはこちらで私とお話をいたしましょう」


要に付いていこうとするナターシャをユアは止め、人が寄り付かなそうな部屋へと案内する。



普段は誰も通りかからない部屋に連れられたナターシャはユアと二人きりになった。

ユアとの接点がほとんどないので、呼び出される心当たりが無いナターシャは質問をする。



「私を別室に連れてきてまで、どのようなお話なのでしょうか……」


ナターシャは不信感から少しだけ棘のある聞き方になってしまう。



「その前にお茶を淹れますね」


ユアが近くにある台所へ行き、お茶の用意をする。


当然、王女であるユアに雑用はさせられないのでナターシャは変わろうとするが、キッパリと断られて席に座っているようにと強く言われてしまうのであった。




「ふふ。はい、どうぞ」


ナターシャが席で待っていると、ユアが微笑みながらお茶を差し出す。



「ありがたく頂戴いたします」


お茶を受け取ったナターシャはお礼を言い、特に喉は乾いていないがユアがそそのかすように見つめているのでお茶をすすった。



「それでお話というのはどのようなことでしょうか……?」


お茶で一息ついたナターシャは再度ユアに尋ねる。



「あ、そのようなものはございませんよ?」


とぼけたような態度でユアはケロッとした表情で答える。



「どういうことですか……? あれ___」


ユアにさらに質問をしようとするナターシャだったが、目眩が酷くてそれどころではなくなる。


フラつくナターシャを心配する素振りはせず、ユアは質問に答えるために説明をしだす。



「要様が戦地へ行かないようにするためにはどうすれば良いのか分かったのです! 傷を癒せるアナタが居なければ、王都へ要様は帰って来れるではないですか? だから___」


大衆に向かって演説をするように悦に浸りながらユアは言う。


そして、言葉の続きはナターシャに言わせるように、倒れ込んだナターシャの顔をユアは覗き込む。


「私に、毒を、盛ったのですね……」


毒が回って呼吸困難になりながらもナターシャは言い切った。



「半分正解です! もう半分は要様と仲良くしていたからです。私を差し置いて、いつも後を追うようにくっついていたのは我慢なりませんでした。要様と一番親密になって良いのは私なのですよ?」


ユアはこの瞬間、ハッキリと要のことが好きだと自覚する。

今までは初めて出来た友達と思っていたが、言葉に出すことで要に対する気持ちの正体を知るのであった。



そのことを言い終わる頃にはナターシャは息を引き取っていた……。

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