第32話 強すぎる執着心
「どうしてですか!?」
要はお互いの息のかかる位置まで距離を詰められていたサナから離れ、魔女の里に向かっている理由を問いただす。
「要様の為です。わたくしと結ばれることが要様にとって幸せだからです」
サナに名前を言われたことで、正体がバレていたことを要は確信する。
要の姿が変わっていてもサナは一瞬で気づき、馬車で魔女の里へ連れていく計画を咄嗟に思い付いたのである。
「サナ様に要様の幸せを決める権利はないと思います」
ヘレンは勇気を振り絞って正論をサナにぶつける。
「アナタがわたくしの要様を騙しているのですね?」
ギロっと眼球だけを要からヘレンに向け、射貫くような眼力でサナは睨みを利かせる。
「ヘレンさんの言う通りです。僕は……」
「待ってください! その先は言わないで__」
要がヘレンの言葉を肯定し、自らの意思を伝えようとする。
何を言われるのか察したサナは、続きを聞きたくないので必死の形相で止めようとするが、それは叶わないのであった。
「僕は__サナさんと結ばれたいとは思っていません……」
自らの意志が固いことを分からせるためにも、要は真っすぐとサナの目を見て言い切った。
「あぁぁぁ……」
サナにとって最も残酷な言葉を言われてしまったことでサナは放心状態になる。
ショックが大きすぎたサナはうめき声を垂れ流しながらうなだれる。
「今の内にここから逃げましょう」
要はヘレンに手を差し伸べ、馬車の扉を開ける。
そして、走行中の馬車から飛び降りる衝撃をヘレンに与えないようにするため、お姫様抱っこしようと手繰り寄せる。
「許さない。絶対に許さない……」
サナのうめき声は次第に恨み言へと変わっていく。
怒りの限界を超えたサナは腰から短剣を抜き、勢いよく標的に向かって振りぬく。
「きゃぁぁぁっ!」
ヘレンは突然の痛みに耐えられず、声を上げた。
ヘレンの左太ももに短剣が刺さり、血がダラダラと流れる。
「なんでこんなことをするんですかっ!?」
温厚な要は久しぶりに怒鳴り声を出す。
要がサナを見る眼差しはかつての仲間に対するものでなく、軽蔑の色で染まっていた。
そして、要はすぐにヘレンの傷口の具合を心配をする。
「一人で逃げてください。私のこの足ではもう無理です……」
微かに動くだけでも走る酷い痛みに堪えながら、ヘレンは要の自由を案じる。
「いえ、逃げるのはヘレンさんと一緒です。これだけは譲れません」
普段は頼りなさそうな要であるが、この時ばかりは勇者らしく頼もしくなっていた。
要の言葉に反論したいヘレンだったが、血を流しすぎたことで気を失ってしまう。
「今すぐその汚い体をどけろ! わたくしの要様に触れるなぁぁぁ!!」
要がヘレンのために行動する様子を見たサナは激高する。
自分ではない他の女が要に優しくされていることが許せないのであった。
サナが激高して注意力が散漫になった隙を付き、要はヘレンを抱えて馬車を降りる。
「待ってくださいっ。わたくしの傍から居なくならないで……」
要が遠くへ行ってしまうと焦ったサナは叫びながら懇願する。
「さようなら、サナさん」
サナに顔を向けないまま、要は完全に決別をするという意味を込めながら別れの言葉を告げる。
「逃がさない、逃がさない、逃がさない、逃がさない、逃がさない、逃がさない……。絶対に逃がさない!」
要を自分のモノにするという強い意志をサナは前面に出す。
そして、サナも馬車を降り、なり振り構わず要を追いかけ始めるのであった。
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