第31話 サナの手のひらの上
要とヘレンは昼頃には次の都市へと到着した。
流石に要も疲労が溜まってきたが、少しでも足を止めれば包囲網が完成されるので水の補給だけしてから移動を続けることにした。
寄り道をすることなく、水を補給した二人は都市の中へ入ったとき同様に、出る時も検問官に止められる。
「えーと。送られてきた特徴と一致は……、しないな」
外見を変えた効果が出ており、検問官は資料に記された要とヘレンの特徴が一致しないと判断する。
日本の文明レベルとは異なる発展をしている世界なので、写真という概念が存在しないことに要は感謝するのであった。
「そこの二人、止まりなさい」
検問をパスできて安堵した二人を呼び止める声がした。
そして、呼ばれた方を向くと___
「そこの金髪のあなた、この服に見覚えはありませんか?」
要が一つ前の都市で売却した服を持ったサナが居た。
「え……。い、いや。初めて見ました」
要は焦りを隠すことはできないまま返答する。
「そうですか。隣のアナタは?」
サナは視線をヘレンに移して同じ質問をする。
「いえ、見覚えはありません」
要とは違い、ヘレンは淡々と答えた。
ユアの元で働いていたヘレンはこの程度の事では冷静さを欠くことはなかった。
「アナタたちはこれからどこへ向かうのですか?」
サナはさらに質問をする。
要は自分が会話をするとボロを出しそうだと思い、目線でヘレンに対応をお願いする。
それを受け取ったヘレンは咄嗟に思い浮かべた信憑性のあるストーリーと共に返答をする。
「夫の実家があるモーリス南部へ馬車で行くところです」
ヘレンは要と夫婦という設定で、魔女の里とは真逆にある都市へ移動している最中だと伝えた。
心なしかサナの眉間がピクっと動くが、本人以外は誰も気づかないレベルである。
客観的に見ても違和感のない受け答えをヘレンはしたので、要とヘレンは解放されると思い込んでいた。
「丁度、わたくしもモーリスへ行くところだったのです。よろしければ、わたくしの馬車に乗っていきませんか?」
「折角のお申し出ですが、ご負担をかけてしまうのでお気持ちだけいただきます」
サナからの思わぬ提案に流石のヘレンも一瞬だけ沈黙するが、すぐにお断りの言葉を述べる。
「乗っていきなさい」
しかし、サナは強めの口調で馬車に乗るように促す。
結局、頑なに断ると余計に怪しまれると思い、要とヘレンはしぶしぶとサナの馬車に乗ることになった。
馬車は二十台あり、その中の一つにサナと向かえ合うように要とヘレンは座る。
サナは馬車に乗るなり、要が売却した服を持ちながら口を開く。
「先程お見せした衣服ですが、金髪のアナタに似合いそうなので差し上げます」
「そんな高そうな服は貰えません……」
各地の検問官には衣服の特徴を含めた要に関する情報が送られているため、荷物検査で見つかるリスクがあるので要はやんわりと断った。
「馬車にも乗せていただき、そのうえ衣服までいただくことは出来ません」
ヘレンからも助け舟を出し、衣服を受け取らない流れに運ぶ。
「アナタには聞いていません。金髪のアナタにこれを着用していただきたいのです」
ヘレンに対してはサナの口調は荒くなるが、要に対しては丁寧な対応をする。
その後もサナは何度も要に衣服を押し付けるので、とうとう受け取らざるおえない状況になるのであった。
「その前髪、とてもよくお似合いですね。目元がハッキリと見えるのが良いと思います」
唐突にサナは要の前髪を褒め出す。
要は外見を変えている自分にサナが積極的に話しかけてくるので、基本的には他人に冷たいと思っていたサナの意外な一面に驚く。
そして、サナを始めとしたユア達の本性を知らなかったので、自分は本当に何も見えていなかったのだと自虐的な思考になっていく。
滅入った気持ちを晴らすために要は窓を開けて外を覗いた。
「え、モーリス南部に向かってない……。むしろ___」
「はい、魔女の里に向かっています」
口元だけニヤリと緩ませながらサナは要の言葉の続きを言うのであった。
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