第30話 覚悟
要とヘレンは魔女の里から一番近い都市に辿り着いていた。
まだ夜に抜け出してから半日しか経っていないので、移動できる距離には限界があった。
「ヘレンさん、体は平気ですか? 少し休憩しましょう」
基本的には要がヘレンを抱えて走っていたが、それでもヘレンにも負担はかかっていた。
その結果、顔色で分かるくらいにヘレンは疲弊していた。
「いえ、私は大丈夫です。どうして足手まといの私を連れてきたのですか?」
命を賭してでも恩返しをしたかった要の足手まといになっている現状にヘレンは耐えられなかった。
一人で逃げれば少なくとも倍以上の距離は稼げていたはずだとヘレンは考えていた。
「あのままヘレンさんを残していたら、きっと無事ではいられないと思ったからです。それに、僕を助けようとしてくれた人を見捨てることはできないです」
昨日のユア達の言動から、ヘレンは無事でいられる筈がないと要は分かっていた。
それを分かっていてヘレンを見捨てる選択肢は要には無かった。
その要の姿勢を見て、やはり勇者なのだとヘレンは再認識するのであった。
休憩をしたのでヘレンの顔色が良くなり、次の都市へと移動しようと外へと繋がる門へ行く。
すると、そこでは検問官が出入りする人を立ち止め、素性を徹底的に調べていた。
「もしかしたら、ユア王女が伝令を飛ばして網を張り巡らせたのかもしれません」
ヘレンは似たようなことを過去にやらされていたのですぐに理解した。
なので、その網を抜けるための対処法もある程度心得ていた。
「本当にいいんですか?」
髪を切って白髪に染めようとするヘレンに要は最終確認をする。
女性にとって大事に伸ばしていた髪をバッサリと切ることの深刻さについては要も知るところであった。
「はい、要様が自由を得るために比べたら、私の髪など価値はありません」
ヘレンの覚悟は既に固まっており、勢いよく腰まであった髪を肩まで切った。
「どうでしょうか?」
短く切った髪を白く染め終えたヘレンは要に確認をしてもらう。
「とても似合っています。前も素敵でしたが、今も魅力的ですっ」
少しでもヘレンの気持ちが軽くなるようにと、要は必要以上に褒め称えた。
要は自分で言いながら、顔が熱くなるくらい照れるのであった。
「ありがとうございます。その、上手く印象を変えられたのかお伺いしたつもりでした……」
予想の斜め上をいく返答にヘレンも照れていた。
要は勘違いをしていたことを知って恥ずかしさの限界を超えるが、一度出した言葉を取り消すことは無かった。
また、要も目を隠すように覆いかぶさった前髪を切り、髪を黒から金髪へと変えた。
当然、服も買える必要があったので、要とヘレンは適当な店で服を購入した。
要が普段から着用してる服はサナが作ったものなので、覚悟を決める意味でも新しい服に着替えるに伴って、着用していた服を店で売り飛ばすのであった。
そして、ガラリと印象を変えた二人は門に行って検問を受ける。
「髪色や長さ、服の特徴も勇者の要様とメイドのヘレンとは違うな」
検問官は手に持っている要とヘレンの特徴が記された資料と二人を交互に見やりながらブツブツと呟く。
その間、要とヘレンはバレないかドキドキしながら検問官の様子を見守る。
「問題なし、行ってよし!」
検問官は要とヘレンに気づくことなく、通行許可を出した。
こうして二人は次の都市へと逃げるのであった。
しかし、サナを筆頭にした追跡部隊はすぐそこまで迫っていた。
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