第41話 英雄譚になるはずだった物語
討伐隊が結成されて出撃を翌日に控えた夜、ユアは寝室のベットに横になりながら要との出会いを振り返っていた。
当時は魔王軍の侵攻が進んでおり、人類の約六割が魔王領として飲み込まれていた。
日が増すにつれて進行速度は増していき、十年後には人類が滅ぼされていると予測されていた。
そんな時、オルフェウス王国では異世界から特別な力を持った勇者を召喚することが決議された。
「ですが、関係のない人をこちらの都合で呼びよせ、あまつさえ私たちのために戦いを強いるのは間違っています! 自分たちの世界は自分たちの力で守るべきです」
決議されてからも当時のユアは勇者召喚に否定的な意見を述べていた。
召喚されてくる人のことをおもんばかって、聖女と呼ばれるに相応しい人間性を発揮していた。
「一人の命と人類の命、比べるまでもない。それにもう決まったことだ」
ユアに高圧的な態度で釘をさしてくるのは、現国王であるハンジの弟のザスケス公爵だった。
ザスケスは勇者を人類を救うための道具として見ている勇者召喚強硬派の筆頭である。
「それでもっ……」
「ユア、もうよい。これは仕方のないことなのだ」
食い下がるユアを国王としてではなく、父親としてハンジは諫める。
ハンジは申し訳ない目をユアに向けており、そうさせてしまった自分の行動にユアは悔いるのであった。
そして、何度も失敗しながらも、弓の勇者である要はオルフェウス王国に召喚された。
「え、ここは……」
学校で授業を受けていた最中に、いきなりオルフェウス王国に召喚された要は驚きとともに不安に駆られていた。
要の周囲には勇者召喚の儀を執り行うために何十人もの魔法使いや魔女がいたことで、要にとっては見慣れない光景が恐怖心をさらに煽っていた。
「本当に申し訳ございません。私はオルフェウス王国の第一王女、ユア・オルフェウスと申します」
要を囲むようにして立っている集団の中からユアは要の前に出て、謝罪と一緒に自己紹介をする。
それが二人の出会いであった。
召喚されてからすぐに議会の場に要は連れていかれ、人類のために勇者としての使命を果たして欲しいと告げられる。
ユアはその様子を自分たちの都合の良い形で要を説得するようで吐き気がするくらい自己嫌悪感を覚えていた。
「私たちの勝手で要様に重荷を背負わせてしまい本当に申し訳ございません。要様にはもちろん拒否する権利があり、私は要様の意志が尊重されるように何でもいたします」
議会が終わった後、要が自分の意見を言いやすいように人払いをしてから一対一でユアは話をしていた。
召喚してしまった責任を取るため、ユアは下心なく要への協力をするつもりであった。
「いえ、状況を聞いてしまったので、このまま傍観している訳にはいかないです……」
要は人類を救うために戦うと心に決めていた。
要は力がある者が怠慢で何もしないまま人が死ぬことを許せないのであった。
妹が病気で亡くなったばかりであったことが勇者として戦う決意をしたことに大きく関わっていた。
___というのも、妹の病気は高額な治療費を払って最先端の医療を施していれば助かったかもしれないとう背景があったからである。
要は経済的に治療費を払えない上に、お金を借りることが出来なかった環境の悔しさを繰り返してたまるものかと思っていた。
そのため、やれることがあるのに何もしないという選択肢は要には存在しない。
「ありがとうございます……。私は要様の力になれるように精一杯努めさせていただきます」
要の選択にユアは深々と国を代表するつもりで頭を下げた。
そして、人類の為に命を懸ける要を支える決意をする。
どこかの英雄譚で出てきそうな序章と同じく、この時のユアは勇者の為に身を粉にして尽くす聖女そのものであった。
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