第40話 決議
要とサナの結婚式が執り行われている頃、オルフェウス王国の議会では重大な会議をしていた。
「___ということで、サナを筆頭としてフォルマー家は隣国のトルギス王国に寝返りました。それも、勇者の要様を連れてです」
ユアは魔女の里からオルフェウス王国へ帰ってすぐにフォルマー家が以前からトルギス王国に内通しており、遂に裏切り行為を働いたと告発していた。
議会に参加している貴族たちはユアからの密告とはいえ、何百年という年月もオルフェウス王国の支柱として国を支えていたフォルマー家に限ってそんなことはないと否定的な意見で会議室ザワついていた。
もちろん王女であるユアに正面切って名乗りを上げて否定する者はいなく、噂話のように小言で話すばかりであった。
「静粛に! これまでの実績から鑑みて、フォルマー家が離反したと信じることは難しいのです。確固たる証拠はありますか?」
会議を取り仕切る議長が緩んだ空気を引き締め、ユアに証拠を求めた。
「はい、もちろんです。冗談や思い付きだけでこのようなことは言いません」
自身に満ち溢れた態度でユアは答える。
丁度、ユアが言い切った時、大人が十人掛かりでやっと開けられる会議室の大扉を勢いよくバタンっと開かれる音がする。
何事かと会議室の面々が扉の方を見ると、そこには一人で扉を開けて中に入ってくる人物が目に映る。
「サナ・フォルマーは我らの祖国を捨て、勇者の要様を引き連れてトルギス王国へと亡命しておりました」
要の前で見せるような砕けたものではなく、王国の剣としての言葉遣いでレーナは声を高らかにして伝える。
その言葉を聞いた貴族たちは額に汗を出し、外聞を気にせずに驚く。
「誠なのか? いや、王国の剣であるレーナ・サウスガンド殿の言葉なのだから疑う余地は無いのだろうな」
議長が報告を一瞬だけ疑うような素振りを見せるが、発言している人物がレーナということを認識するとすぐさま信じるのであった。
フォルマー家と同じく何代も前から王国の剣として国の発展に貢献してきたサウスガンド家の長女であるレーナの言葉を疑う者は居なかった。
そして、王女のユアと王国の剣であるレーナの二人が同じ主張をしていることから、フォルマー家の離反が確定したことを悟った貴族たちの間に大きな動揺が生まれた。
その後はユア主導でフォルマー家の処遇について話し合いが進んだ。
その結果、要以外の生死は問わずに裏切り者を静粛するための討伐隊が組まれることになった。
討伐隊を率いるのはレーナであり、国同士の戦争になるため総大将としてユアも担ぎ上げられて同行することに決定した。
「あははははは! 上手くいくものですね。ようやく一番厄介なサナを消すことができる!!」
会議が終わり、誰も居なくなった部屋でユアは一人で嘲笑っていた。
レーナやアイギスを要から遠ざける方法は複数あるが、オルフェウス王国ではなく勇者に忠誠を誓うことが認められているフォルマー家だけは簡単に消すことが出来ないでいた。
特殊な性質を持つため、ユアの得意な裏工作などは通用しないのである。
そのため、サナをオルフェウス王国から離反させ、正々堂々と排除できる大義名分を作ることにしたのであった。
「これしか方法が無かったとはいえ、一時でもサナに要様を取られるのは腸が煮えくり返るような気持ちになりますね」
ユアは怒りで体に力が入り、口に咥えていた親指をギリッと噛んでしまい指から血が出る。
「もしもの時に備え、要様の初めてを奪っておいてよかった……」
親指から流れていく血を眺めながら、ユアは破瓜の痛みを思い出して興奮するのであった。
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