第9話 捜索開始

要が城の外へ行ってから少し経過した頃、城内の何処にも要の姿が見えないことに女性達が気付き始める。


「要様はどこかしら……」


ユアはお風呂上がりの色気ある姿を要に見せつけたかったが、見当たらないので心を乱していた。


「おかしい、要殿の気配がしない」


野性味溢れることを言っているのはレーナである。

頭脳を使った絡め手よりも、対策の仕様がない野性の勘の方が逃げるためには厄介だろう。


「ポーチとお財布が部屋から無くなっています。もしかして、城の外に行ったのかもしれません」


サナは自然に要の部屋から出てきて、当たり前のように部屋のどこに何があるのか把握していた。


「アイギスの探知魔法でも要を見つけられない」


要が持ち前の隠密スキルで本気を出せば探知魔法に引っ掛からないが、現状はそのようなことを要がする必要がないため、アイギスの魔法で反応がないのであれば城内に居ないと結論づけた。


女性達がピリついた空気を漂わせながら、問題解決のために使用人たちに聞き込みをすることにした。

そして、要は堂々と降ろされた橋を渡って城門から外出したと判明する。



「―――ということですが、どうして要様をここから出したのですか?」


門番の男性にユアは怒りを隠すことも無く、問いただす。

国民や臣下の間では誰に対しても慈悲深いと評判のユアとは思えない形相である。


「そ、その、要様が外出する許可は得ているとおっしゃっておりましたので……」


ダラダラと冷や汗を流しながら、門番の男性は怯えた声で答える。

無論、門番の男性は嘘を述べているつもりはないが、要は外出の許可を得ていなかった。

要が門番の男性に伝えたのは外出したいとユア達に意志は伝えたという意味であるので、要と門番の男性の間には解釈の齟齬があった。



「この際、理由はどうでも良いのです。要様がに帰ってくれさえすれば……」


サナが虫を見るような目で失態を犯した門番の男性を睨み付けながら呟く。

サナが口を滑らせたように、他の女性達も要がに帰ってくるのを願っていた。



「サナの所ではなく、私の元にでしょ?」


アイギスがサナの発言に細かい訂正を入れ、それにサナは「そうですね」と淡白に返事をするのみであった。

要を手に入れたいと思っている女性達の中に裏切者が居れば、このまま要と一緒にどこか遠い場所へ姿をくらますかもしれない。

そうならないようにアイギスは釘を刺した。


「急いで要様を連れ戻してきてください。もし、失敗したら……分かっていますね?」


ユアはいつも通りの貼り付けたような笑顔を崩さないまま、門番の男性に心からの言葉を伝えた。

誰からも好かれる振る舞いを心掛けているユアだが、要のことになると綻びが出てしまう。


「か、必ずや要様を連れて参ります」


門番の男性は震える足でなんとか歩き出し、他の使用人たちを引き連れて要を探しに行った。



「ワタシ達も出るとしようっ。優しい要殿が悪い女に引っ掛かる前に迎えに行かなければな!」


一番タチの悪い女が自分たちであることを棚に上げ、レーナに賛同するように女性達は要を連れ戻しに城の外へ出ていった。

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