第46話 出撃

ユアはベットに横たわり過去を振り返っていたまま寝落ちし、目を覚ますとサナを討伐する出撃日の朝になっていた。


「あぁ、要様。私たちの仲を裂くサナを倒しますので、もう少しだけ待っていてくださいね……」


最愛の人に愛されていると思い込んでいるユアは、今は触れられない要のことを想いながら呟く。




起床してからは、日の光が差し込むことない劣悪な環境の地下へ足を運ぶ。

目的は地下牢へ閉じ込めている人物に会うためである。


コツコツと足音を響かせながら、目的の人物が収監されている檻の前まで出向く。




「お久しぶりですね。ザスケス」


ユアはしばらくぶりに叔父の顔を拝みに来たのである。

もちろん、ただ様子を見に来たのではなくて取引をするためだった。



「私の家族はどうした!? 何もしていないだろうな」


碌に食事を与えられていないので、ザスケスの体は骨と皮だらけになっていた。

それに加え、要を苦しめた罰としてユアが直々に行った熱した鉄を体に擦り付けてできた火傷の跡がいくつも見受けられる。


そんなザスケスはユアを見るなり、自分の息子と妻の安否を知りたくて擦れた声を荒げる。



「殺したら交渉材料になりませんから生かしていますよ。なので___」



ザスケスの家族には手を出さない代わりに、ユアが要を愛するあまりにやってきた悪行を被ってもらう取引を持ち掛ける。


ナターシャの他にも要に色目を使った使用人達も罰を与えてから始末してきたので、ユアの周囲では不審死や行方不明者が多発するという噂が広まってきていた。


既に犯人探しが行われているため、要との幸せな生活を送るために自らの罪を暴かれる訳にはいかないとユアは考えていた。





「受け入れよう……」


反抗心をユアからの拷問によってそぎ落とされているザスケスは提案を受け入れた。

こうして要を道具として扱う強硬派トップであったザスケスの末路は悲惨なものに決まった。



ただ国民の為に行動しただけであるが、ユアの狂気によって人生が狂わされた被害者である。




用事が済んだユアが牢屋から立ち去る間際、「人間の皮を被った悪魔が……」とザスケスは軽蔑するのであった。






一方、討伐隊を率いるレーナはいきり立ちながらユアが王城から出てくるのを待ちわびていた。


そして、ようやく姿をユア姿を現すとレーナは勢いよく駆け寄る。


「約束は覚えているな?」


要には聞かせられないくらい憎しみの籠った低い声でレーナはユアに問う。



「はい、カートとの結婚を解消させることですね?」


半ば無理やりレーナとカートを結婚させたユアは、今回の討伐を上手くこなした褒美として、カートとの離婚を認めることを約束していた。


「それだけではないだろう! ワタシに関する記憶を要殿に戻すこととカート殿と結婚をしていた経歴を消すことだっ」


ワザと約束をはぐらかそうとするユアに容赦なくレーナは怒鳴る。

そこには騎士が王女に誓うべき忠誠心の欠片も無かった。



「はい、もちろん分かっています。アイギスの魔力は手に入れましたので問題ないですよ」


ユアは左薬指に付けた指輪をレーナに見せつける。


指輪にはアイギスの魔法の杖に使用されていた魔法石の一部が宝石として装飾されていた。

その宝石にはアイギスの魔力が込められているため、同じ魔力で行使した記憶封印魔法に干渉することが可能となっている。

その力を利用して封印した記憶を好きな範囲だけ解放することが出来るのである。



「要殿がワタシのことを思い出さなかったら、真っ先に叩き斬るからな」


レーナは冗談ではないということを強調するため、ユアを睨みつけながら言い放つ。


騎士でも怯むようなレーナからの威圧にユアは気圧されることもなく、嘲笑うのみである。




討伐前から信頼関係がないまま、討伐が開始されるのであった。

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