ざまぁ回 郷山の屈辱

 ――一方その頃。


「くそっ! くそっ……!」


 月島高校の二年三組……郷山健斗ごうやまけんとは、断続的に鳴り響くスマホの着信音に震えていた。



 ――やっほー、これ破壊神くんのアカウント?www

 ――おいおいすげえじゃん、おまえ8chで有名人だな! 悪い意味でだけど‼

 ――ねぇねぇ、いじめてた奴に逆転されて今どんな気持ち? ねぇねぇねぇ!

 ――破壊神とかくっさwww

 ――郷山クンももう終わりだねぇwww



 その内容のほとんどは、先日の綾月ミルの配信に端を発したものだ。


 さすがに精神的に恐ろしくなってしまい、今日は学校に足を運ぶことができず。

 こうして自室の布団のなかでこもり続ける一日を送っている。

 陽キャを自負していた郷山にとって、これはこの上ない屈辱だった。


「くっそ……! 特定班、仕事早すぎんだろ……!」


 そう。

 昨日の綾月ミルによる生配信を、郷山は《破壊神》というハンドルネームで視聴していた。


 理由は単純。

 ただただ郷山自身が、“月島高校の破壊神”を自称しているから。

 上位スキル《攻撃力アップ(特大)》を持つ郷山を、取り巻きたちがそう呼んできたから。


 だから自分にこれ以上ぴったりな名前はないと判断し、ハンドルネームを《破壊神》にした。


 理由はもうひとつある。


 なにを隠そう、郷山自身が綾月ミルの大ファンだった。


 顔もめちゃくちゃ可愛いし、ちょっと抜けているところがあって性格もドストライク、そして男の夢をすべて叶えているかのような抜群のスタイル。


 そういったところが、郷山の好みにぴたり合致するのだ。


 しかもこれまでの生配信を見ている限り、たぶん住んでいるところが近いかもしれない……そう郷山は推測していた。

 昨日の生配信だって、月島高校からほど近いところにあるダンジョンだったから。


さすがに昨日は凸れなかったが、いつかワンチャン狙えるのではないか……。


 そんな欲望も込めて、ハンドルネームを《破壊神》にしていた。

 この名前はとにかく色んな意味で目立つから、きっと彼女の目に留まるのではないかと。


 なのに、そんな綾月ミルの配信中に奴は訪れた。


 ――霧島筑紫。


 郷山がずっと憧れてきた綾月ミルに対し、霧島はおくびれる様子もなく話しかけていたのだ。この先には、河崎パーティーでさえ敵わなかった緊急モンスターがいると。


 当時の郷山はもちろん、そんなことがあろうはずもないと思った。


 河崎パーティーといえば、数多くの探索者のなかでも頂点に立つ凄腕集団だ。


 そんな実力者を引き合いに出してくるのは、どう考えても綾月ミルの気を引こうとしているとしか思えない……。


 そう判断した郷山は、ためらいもなく霧島の個人情報を暴露した。


 ひとりだけ怒ってきた奴がいたが、そんなことはもはやどうでもいい。霧島ごときが大好きな綾月に話しかけた……それだけで重罪に値すると考えていた。


 実際、生配信中でもあいつはコミュ障っぷりを発揮していた。


 これであいつにもデジタルタトゥーがついて、よりいじめ甲斐が増すと思っていたのだが……。


「くそ! どうなってんだよッ‼」


 紅龍ギルガリアスの攻撃を軽々受け止めていた、当時の霧島筑紫――。


 その光景を思い出して、郷山は思わず奇声を発する。


 あれは明らかに普通じゃなかった。

 紅龍の攻撃を受け止め続けるのは郷山でも不可能なのに、あいつはそれを軽々とやってのけた。


 あの場面からコメント欄の雰囲気も一変した。


 誰もが霧島を応援していた。

 綾月ミルを助け出した救世主として、みなが霧島を英雄視していた。


 あいつにデジタルタトゥーをつけようとして本名を晒したのが、完璧に裏目に出てしまった形となる。いまではもう、どこを見てあいつを賞賛するネット記事ばかりだ。


 そして――そればかりではない。

 具体的な高校名も出してしまったばかりに、《破壊神》の名もバレそうになりつつある。


 上位スキルの《攻撃力アップ(特大)》を利用して、いままで何人かの配信者から出演依頼をもらったこともあるからな。


 それら諸々の条件が重なって、郷山の名がバレるのも早かった。


「ピロン♪」


「ひ、ひいっ」


 再び鳴ったスマホの着信音に、郷山はまたも身を竦ませる。



 ――ねぇねぇ、おまえが破壊神ってマジ? しかもひでぇいじめしてたんだって?――



「ち、ちくしょう……」


 人生初めての炎上は、郷山の精神を確実に追い詰めていた。この調子では、明日も学校には行けそうもない。


「くそったれめ……! 全部、全部あいつのせいだ……!」


 毛布にくるまりながら、郷山はブツブツと独り言を繰り返していた。


「復讐だ。あいつに復讐しなきゃ、気が収まらねえ……!」


―――――――――――


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