新たな能力が化け物すぎる

 事態は収束に向かった。


 郷山弥生は無事に逮捕され、いまは厳しい取り調べを受けているところだろう。


 ニュースによると、弁護士がくるまで黙秘を続けているらしいが――いずれにせよ、今後なんらかの情報が舞い込んでくることは間違いないはずだ。

 俺にできることはもうないので、とりあえず新しい報道を待つしかない。


 今回の件を受けて、ダンジョン運営省にも大掛かりな捜査が入ると見込まれる。


 炎属性の魔法を無効化した防具といい、現実世界にも影響を与えたシヴァーナといい、いろいろときな臭いことがありそうだからな。


 美憂がばっちり音声動画に収めてくれた以上、もはや言い逃れは不可能。


 今もときおり、与野党がダンジョン運営省を厳しく追及しているニュースが放送されているからな。事実が明らかになるのは時間の問題だろう。


 そしてもう一つ。

 配信中に美憂の過去が晒されてしまった件についてだが――こちらは炎上せずに事が済んでいる。


 なんと配信当時、事件の被害者遺族がコメント欄に登場したらしく……。


 そもそも賠償金を命じられていないこと。

 それでも償いのために、美憂は多額のお金を振り込んできてくれたこと。

 そしてそろそろ、自分の人生を歩んでほしいこと……。

 これらの思いを書き込んでいたらしい。


 もちろん、タチの悪い悪戯という可能性もあるけどな。


 その後ネット民たちが調査したところによると、少なくとも、賠償金の件は本当だということがわかっている。


 つまり美憂が無茶な配信をしていたのは、たとえ遺族へ支払う必要がなくても、過去を償うための金銭を用意するためであり――。


 そもそも美憂自身はあまり関与していない事件ということもあって、彼女はまったく炎上していない状態だ。


 一方で、郷山健斗のほうは少し複雑である。


 いくら土壇場で助けにきてくれたとはいえ、もともとひどい苛めをしていた張本人だからな。


 彼をこれから許してあげようとする声もあれば、なかなかそれを認めようとしない声もある。


 あいつが戦いに割り込んできてくれた時も、美憂による配信中だったからな。少しでも汚名を返上するために、我が身可愛さで特攻してきたのだという声もある。


 ――しかしまあ、こういった批判的な意見も、いまの郷山は丸ごと受け入れているっぽいな。


 たった一度命を賭けたくらいで、自分が許されるわけがない――。


 そんなふうに受け止めているようである。


 俺自身、郷山にどんな心変わりがあったのかは全然わからないけどな。

 それでも数日前に比べれば、あいつの瞳から淀みが消えているのだけは伝わってくる。


 そして。

 俺の《ルール無視》スキルについても、弥生との戦闘後、新たな変化が生じた。


 自宅のベッドに寝転んでいると、なんと視界に次のような文字列が表示されたのだ。



――――



戦闘経験につき、新たな《ルール無視》が追加されました。



 ・薬草リポップ制限時間 無視

 ・相手の攻撃力 無視

 ・炎魔法使用制限 無視

 ・MP制限   無視

 ・三秒間の時の流れ 無視

 ・地魔法使用制限 無視

 ・風魔法使用制限 無視

 ★ダンジョン外での能力制限 一時無視


――――


 ――ダンジョン外での能力制限 一時無視。


 これを字面通りの能力だと捉えるならば、今後、ダンジョン外でも魔法を使えたり時を止めたりすることができるんだろう。


 ダンジョン外では基本的にスキルは扱えないし、ステータスも適用されない。

 そんなルールを、この能力は無視してしまうんだろう。


 だからこれも化け物能力と言わざるをえないが、ひとつ気がかりなのが、あくまで一時・・無視と記載されているところか。


 無暗やたらと扱えるものではなく、実際にスキル名を心中で唱えても何も起こらない。


 もちろん意味のない能力とも思えないので――これについても追々探っていく必要があるだろう。



 そんなふうに、あの激闘によって生じた疲れを癒していた日曜日――。


 美憂から「会いたい」というロインが届いているのだった。



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