ざまぁ回 迷惑系配信者、渾身の煽り
「そ……そんな……」
郷山弥生は弱々しい声を発すると、その場で両膝をついた。
魔物を召喚しようにも、もうMPを切らしているのかもしれないな。魔導杖を握ったまま、もはや身じろぎもしない。
「し、信じられない……。私が負けるなんて……」
「これで終わりね。郷山弥生」
そんな彼女に話しかけたのが、綾月ミル――あらため、綾月美憂。
「さっきも言った通り、あんたの悪行はもう全国に知れ渡ってる。もう隠蔽のしようがないほどに燃え上がっているのよ」
「く…………」
「大人しく投降なさい。ここまでの出来事があった以上、きっと警察も……」
「ふ、ふざけるんじゃないわよ! どうして私なんかが!」
しかし悲しいかな、こいつは異様にプライドが高いんだろう。
弥生は自分の息子を指さし、血走った瞳で叫んでみせた。
「なにもかもあんたが悪いのよ! あんたさえ余計なことしなければ、シヴァーナのバリアーも壊れなかったのに‼」
「お、おふくろ……」
ちなみに現在、郷山はディストリアに肩を貸してもらっている状態だ。
「んなこと言ってもよ……俺はおふくろのやったことが正しいとは思わねえ。どう考えたって、間違ってるのはあんたのほうだろ」
「あ、あんた……。私に口答えをするなんて、ずいぶん偉くなったみたいね……!」
俺には郷山家の事情はよくわからないが、この感じだと、弥生は文字通り《毒親》だったようだな。
幼い頃から郷山に理不尽な命令をし、気に喰わなかったら頭ごなしに怒鳴る。そんな家の状況が、いまのやり取りからも透けて見える。
「ふん。おおかた、霧島の《自分の人生を生きる》って言葉に感化されたんだろうけどね。あんたなんか、私がいないとろくに生きていくことも……」
「――おっと、取り込み中のところすまないのだがね。いい加減黙ってもらえるかな」
険悪な雰囲気をふいに打ち破ったのはディストリアだった。
「……僕は君のような、仁義にもとる人間は大嫌いでね。頼むから、
「うっ……!」
ディストリアの発するとんでもない圧力に押されたか、弥生が一瞬だけたじろぐ。
「それにね、ミルちゃんも言っていただろう? もうチェックメイトなんだよ」
「チェックメイト……?」
弥生がオウム返しに呟いた、その瞬間。
「郷山弥生‼」
ふいに大勢の人間がこの場に駆けつけてきて、弥生を一斉に取り囲んだ。
「多くの住民らから通報を受けた。貴様を《ダンジョン内暴行罪》で現行犯逮捕する‼」
「は……? た、逮捕って……」
「大人しくしろ! 暴れるんじゃないぞ‼」
「うっ」
いきなり現れた警官に手錠をかけられ、無理やり立ち上がらされる弥生。
本当は《ダンジョン内暴行罪》だけじゃなくて、他にも沢山の罪があるはずだけどな。ひとまずはこの罪をもって拘束するということか。
――そして、それだけではない。
同じくリスナーたちから情報提供を受けたのか、記者と思わしき人間たちが大勢こちらに押し寄せてきている。しかも用意のいいことに、護衛用の探索者も数名混じっているな。ここ月が丘ダンジョンはそれほど大勢の魔物は出没しないから、非戦闘員を連れてきても問題ないという算段か。
パシャ。
パシャパシャパシャパシャ!
手錠をかけられている弥生の姿を、カメラマンたちが容赦なく撮影し続ける。
「や……やめなさい。こんなみっともない姿を、全国に晒すなんて……!」
「ぐずぐずするな! しっかり立て!」
「うがっ……」
いまだに抵抗する弥生だが、警官に姿勢を正され、無様な恰好を世間に晒している。
しかも――。
「ほらほら、見てください! あいつが郷山弥生です! なんと、ダンジョン運営省の人間なんですって!」
「うわぁああいつが例のBBA! 気持ち悪いですねぇ~~~~~!」
「ねぇねぇ弥生ちゃああああん? いまどんな気持ち、いまどんな気持ち? ねぇねぇ、隠蔽できないねぇ? ねぇねぇねぇ?」
ミルと同じ配信者にとっても、この瞬間は恰好のネタなんだろうな。
煽り系の動画投稿者たちも含めて、とんでもない数のインフルエンサーがこの場に集まっている。
「や、やめなさい……。う、映さないで……? やめて……?」
「ええええええ? いまさら泣き言いっちゃうんですかぁぁぁぁぁああ? 自分は人の命奪っておいて、ピンチになると泣くんですかぁぁぁぁぁあ? クズでちゅねえぇぇぇぇぇぇ?」
……こりゃすごい。
一種の迷惑系配信者なんだと思うが、とんでもない煽り方だな。
プライドの高い弥生にとっては、きっと耐えられもしないだろう。
「く、くぅううううう……! こんな、こんなはずじゃ……!」
「うるさい! きりきり歩け!」
警官に無理やり引っ張られ、ダンジョンの出入り口へと消えていく弥生だった。
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