ざまぁ回② いやいや、煽りじゃなくて常識の話なんだが

「へへへ……霧島。俺がなんで月島高校の《破壊神》って呼ばれてるか……知ってるか?」


 郷山がステータス画面をいじりながら、いくつもの装備を出現させる。


「そりゃあな、ごくごく単純に俺様が強いからさ。俺様に壊せねぇものなんて……ねぇんだよ」


 そう言いながら郷山が身に着けた装備は、たしかに強力そのものだった。


 両手に持っているその大剣は、たしか《ノーキンソード》と言われているものだろう。漆黒に塗りたくられた禍々しい刀身と、各所に埋め込まれている赤色の宝石が、なんとも邪悪な雰囲気を醸し出している。


 防具に関しても同じだ。

 漆黒を基調にデザインされた大きな鎧で、心なしか黒いオーラを放っているようにも見えるな。


「はっはっは、かっこいいだろ? 俺様」


 その装備を見せつけるようにして、郷山が様々なポーズをとる。


 率直に言ってキショかったが、もちろんその気持ちは胸の内に留めておいた。


「この装備一式は、漆黒龍ゲーテを何度も何度も狩ってやっと揃えられたものだ。大変だったんだぜ? これを全部揃えるのはよぉ……」


 なんと。

 漆黒龍ゲーテはB級の魔物として知られているし、たしかにそいつを何度も狩るのは骨が骨が折れるだろう。人に自慢したくなる気持ちもわからなくはない。


「それに引き換え、なんだテメェ……その剣は」

 郷山は俺を指さし、いつも通りの馬鹿にした表情を浮かべる。

「俺にもわかるぜ? 紅龍・極魔剣――せっかくの貴重な素材を、ネタ武器に使っちまったんだなぁ。マジおまえ馬鹿、カス」


「……あの~、そろそろいいかなぁ? 私、悪口ばかり言う男の人……だいっきらいなんですけど・・・・・・・・・・・・


 横から仲裁を入れてくる美憂。

 セリフの後半部分がやたら冷たいトーンだったのは、きっと俺の気のせいではないだろう。


「あ、はい、申し訳ない……」


 そんな美憂に対し、郷山は素直に押し黙る。

 こいつ……美憂にだけは妙にしおらしいな。


「それじゃ、決闘開始ね。どっちかが降参するか、私が止めたらその時点で終了。オッケー?」


 美憂の問いかけに、俺と郷山が同時に首肯する。


 そして。


「じゃ、はじめーーーーーーー!」


 美憂の大声を皮切りに、

「おらぁぁぁあああああああああああ! 死ねぇぇえええええ‼」

 開幕から、郷山が勢いよく突っ込んできた。


「攻撃力アップ(特大)を扱える、破壊神様の一撃だ! 喰らえぇぇえええええ‼」


 ――おいおい、マジか。

 俺は先日、紅龍の攻撃を何度も受け止めてきたのに。常識的に考えれば、そのスキルだけで勝てるわけないのはわかるはずなのに。


 あの様子だと、てっきりあいつも一昨日の配信を見たんだと思ってたんだが……。


 もしかして、他に深い考えがあるのだろうか?


 さすがにそうだよな。だってこいつ、探索者としては俺の大先輩だし。


 ――カキン、と。

 郷山が振り下ろした大剣を、俺は自身の剣で受け止める。

 もちろん《ルール無視》の《相手の攻撃力 無視》を発動した上で、だ。


「はっ……?」


 まさか驚愕したのだろうか。

 事もなげに攻撃を受け止めた俺に、郷山がぎょっと目を丸くする。


「おい……、なんだよ、なんでおまえが受け止めてんだ……?」


「いやいや、一昨日の配信見てたんじゃなかったか? 当たり前じゃないかこれくらい・・・・・・・・・・・・・・


「こ、これくらいだと……⁉」

 またも表情を引きつらせる郷山。

「き、霧島のくせに俺様を煽るたぁな……! いい度胸してんじゃねえか、おお……?」


「いや、そうじゃない。俺はあくまで常識・・を言ってるだけだ」


「て、てめぇえええええええええええええええええ‼」


 なぜか激しくブチ切れる郷山。

 その後も何度も何度も何度も何度も俺に剣撃を浴びせてくるが、はっきり言ってぬるい。郷山はこれでも先輩探索者だし、有名配信者ともコラボしていた実力者だ。さすがに他に考えがあるんだと思うが……。


「そりゃ」


 試しに剣を振り払ってみると、

「ぷりゃあああああああ‼」

 と変な奇声をあげて飛んでいった。


 ズドォォォォォォオオオン! と。

 勢いよく壁面にぶつかっても平気で立ち上がったのは、あいつが高級装備を身に着けているからか。


「ぜぇ……ぜぇ……くっそ……!」


 息切れが物凄く激しいが、もしかして疲れてるのだろうか。そんなわけないよな。


「ゆ、許さねえ……! こうなったら奥の手を使ってやる……!」


 そう言って、なにやらステータス画面をいじり始める郷山。


 やはり俺の思った通り、あいつには考えがあったみたいだな。


 学校中で尊敬されている郷山が、こんな馬鹿のひとつ覚えみたいに突っかかってくるなんてありえないし。


 そう思って、俺は二つの新能力――《炎魔法使用制限 無視》と《MP制限 無視》を起動するのだった。



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