ざまぁ回③ なんで死にそうになってるのか、それがわからない

「へっへっへ……。こんなレアアイテム、てめぇ持ってねえだろ……?」


 そう言って郷山がアイテムボックスから取り出したのは、なんと《パワフルエナジー》。


 もちろんダンジョン内にだけ適用されるものだが、飲めば一定時間の間、スタミナが格段に減りにくくなるチート級アイテムだ。


 ――まさかこの決闘でアイテムを持ち出してくるとはな。

 卑怯だと思わなくもないが、それならこちらも油断せずに応じるまでだ。


《炎魔法使用制限 無視》。


 このスキルを用いれば、たぶん炎属性の魔法ならすべて使えるんだろう。


 ただいきなり強力な魔法をぶっ放すのは危険なので、まずは初級魔法のファイアボールから使ってみるか。


「はっ!」


 俺が右手を突き出すと、そのてのひらから大きな火球が放たれる。

 それは文字通りすさまじい速度で郷山に襲い掛かるが――


「おうっと」

 郷山はそれをこともなげに躱した。

「はっはっは、ほんとバカだなおまえ。MPが一回で尽きるのに、そんなしょべえ魔法なんか使ってる場合じゃ……」


 ズドォォォォォォォオオオオン!!

 郷山が言い終わらないうちに、奴の背後でとんでもない爆発が湧き起こった。


 避けられたファイアボールが壁面に激突し、さながら兵器がぶっ放されたような衝撃が生じたのだろう。


 ――なるほど。

 ファイアボールではこれほどの威力を出せないはずなので、完全に《紅龍・極魔剣》のおかげだな。ダンジョン内の壁の一部を、見事に破壊してしまっている。


「へ、へへへ……。さすがにとんでもねえ威力だが、おまえはこれを一回しか使えねえ……。しくじったな。次は俺の攻撃――」


「ファイアボール」


「へ……」


 今度からは容赦しない。

 ファイアボールを三つ同時に出現させ、時間差で郷山に放出していく。


「お、おいおい! おかしいだろ! なんで……‼」


 ズドォォォォォォォオオオオン! ズドォォォォォォォオオオオン! ズドォォォォォォォオオオオン!


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい‼」


 郷山の周囲で立て続けに大爆発が発生し、奴の周囲が文字通り荒れ果てる。


 しかし当然というべきか――郷山は三つの火球をすべて躱したようだな。さすが《パワフルエナジー》を使ってるだけのことはある。


 であれば今度は、十個のファイアボールを使ってみるまでだ。


「や、やめてくれぇええええええええええ‼ 死ぬ! 死ぬ死ぬ‼」


 なにやら叫び声が届いてくるが、轟音にかき消されているせいで、なにを言っているのか全然わからない。


 だがまあ――郷山のことだ。たぶんいつもと同じく憎まれ口を叩いてるんだろうな。


 容赦する必要はまるでどこにもない。

 漆黒龍ゲーテの防具を身に着けている以上、まさかファイアボールなんかで死にはしないだろうし。


 ドォォォォォォォオオオオン! 

 ドォォォォォォォオオン!

 ドォォォォォォン!


「や、やめてくれぇぇぇぇええええ! 壊れる! 壊れる!」

「二年かけてやっと作り上げた防具なんだぁぁぁああああああああ! やめてくれぇぇぇぇええええ‼」

「助けてくれぇぇぇええええええええ!」

「壊さないでくれぇぇぇぇぇええええええ‼」


 うん……良い感じだな。


《紅龍・極魔剣》によって生じるデメリットを、《MP制限 無視》が良い具合に掻き消してくれている。


 もともとのステータスが高ければ、もっと高い威力を出せるはずなんだけどな。


 底辺の俺だからこの程度の威力しか出せていないが、まあこのへんは、地道にレベルをあげていくしかないか。


「さて、ウォーミングアップはこれくらいかな。そろそろ本気で戦おうじゃないか、郷山」


「はぁっ……はぁっ」


 しかし。

 消えゆく黒煙のなかから現れた郷山は、なぜか変わり果てた姿になっていた。


 あれほど自慢していた漆黒龍ゲーテの防具は見るも無残に破壊され、ところどころ奴の肌が露出してしまっている。あれではもう使い物にならないだろう。


 しかも《パワフルエナジー》を飲んでいたはずなのに、息切れもめちゃくちゃ激しい。


「なんだ……どうしたんだ郷山。なんで防具がそんなに壊れてるんだよ」


「な、なんでじゃねえ……。おまえがやったんだろ……」


「いやいや、さすがにファイアボールなんか・・・・・・・・・・で漆黒龍の防具は壊れないのでは?」


「くっ……て、てめぇ霧島、許さねえ……!」


「えっ、まだ戦うつもりなの? 郷山くん」

 怒りを露わにする郷山に、美憂がゆっくりと歩み寄る。

「筑紫くん、さっき《ウォーミングアップはこれくらい》って言ってたよ。まだ本気出してないんじゃないかな?」


「う……うん。だって使ってたのはファイアボールだし。できたら他の魔法を試してみたいだけど……」


「だってよ? 郷山くんも……まだまだ戦えるんだっけ?」


「えっ⁉ そ、そそそそそそ、それは……‼」


 急にどうしたんだろう。

 さっきまであんなに威勢よかったのに、急に慌てふためいてしまっている。


「い、いや、本当は俺も戦いたいんだけどな。そろそろ帰らないといけなさそうな時間に……」


「時間って、いま20時になったばかりよ? 本来はいまから決闘する予定だったんじゃないの?」


「ぐ、ぐぅうううううううううううう……!」


 いったいどうしてしまったのだろう。

 郷山の奴、目に涙を溜めてしまっている。


「と、とにかく今回は中止だ‼ また改めて勝負を挑んでやる!」


 そう言って、奴は逃げるようにしてダンジョンから去っていった。


――――――――――


★ブラウザバックする前に一つだけお伝えさせてくださいm(__)m


―――――――――――


お読みくださいましてありがとうございます!


少しでも興味を持っていただけましたら、作品のフォローをしていただけると嬉しいです!


たった数秒の操作で終わりますが、それがとても励みになります!

よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る