容赦なく魔法をぶっ放してみた結果

「クク……ハハハハ……」


 俺たちが戦闘の構えを取っていると、黒服のうち一人が笑った。


「愚かなものだな。世界を知らない一般人というのは、見ていて実に愉快な存在よ」


「……なにが言いたいわけ?」


 美憂が厳しい目つきで睨みつけるが、しかし男はその眼光にも動じず……。

 弥生に向けて、ややかしこまったように声をかける。


「弥生様、もうお伝えしてもよろしいですか?」


「ええ……いいわよ。どうせこの二人は、ただで生きて帰ることはできないから」


「ふふふ……ありがとうございます」


 黒服はニヤリと笑うと、ステータス画面を操作し、茶色のコートのような防具を身にまとった。他二人の黒服もまた、同じようなコートを身につけ始めたな。


「美憂……なんだ、あの防具は……?」


「わからない……。見たことないよ」


 美憂ですら知らないとは、いったいどういうことだ……?


 俺たちの困惑顔が嬉しかったのか、黒服の一人が両頬を吊り上げて笑う。


「はっはっは。いくら有名人といえど、貴様らはしょせん一般人。ダンジョンを管理している我らとは、使えるアイテムに差があるのだよ」


「なんだって……?」


「これは炎属性の魔法を一律に無効化する防具だ。霧島筑紫、貴様は時を止めたり攻撃を無効化したり、厄介な技を持っているようだが――攻撃手段は炎属性の魔法しかない! どうだ、そうではないのか⁉」


 ……なるほど、そういうことか。


 これまでの配信を見て、きっと連中は今日のために対策を練ってきたのだろう。


 炎属性をすべて無効化するのは正直チートとしか言いようがないが、それは言い換えれば、世に出回っていないアイテムを用意してまでも、俺を倒そうとしているのだと考えられる。


 まあ……。

 実はここ最近、地属性と風属性の魔法も使えるようになったんだけどな。


 それは配信してなかったので、連中もわからなかったんだろう。


「しかもそれだけではない! この《エレメンタルミラーコート》は、魔法防御も物理防御も急激に高めてくれるのだ! 霧島筑紫、貴様の出番はまったくないのだよ‼」


「……ッ! 筑紫くん、その三人とは私が戦うわ! だから筑紫くんは……!」


「いや、大丈夫。なんとかなるさ」


 焦る美優をなんとか制しながら、俺は右腕を前方に突き出す。


――――


 使用可能な《ルール無視》一覧


 ・薬草リポップ制限時間 無視

 ・相手の攻撃力 無視

 ・炎魔法使用制限 無視

 ・MP制限   無視

 ・三秒間の時の流れ 無視

 ★地魔法使用制限 無視

 ★風魔法使用制限 無視


――――


 そうだな……今回は風魔法を使うか。


 地属性魔法は威力こそ高いが、予備動作が結構長いのだ。ここは無難に風属性を選んでおくほうがいいだろう。


「クックック、どうした貴様ら! 我らの恐るべき防具に恐れをなしたか! 貴様ら一般人ごときでは、どうしたって届かぬ壁というものが――」


「風属性魔法発動。上級魔法、エアリアルゾーン」


「だから無駄だと……え、風属性?」


 きょとんと立ち尽くす黒服たちだが、正直もう遅い。


 突如としてダンジョン内に発生した竜巻が、一挙に黒服たちを飲み込んでいく。弥生は咄嗟にバックステップで躱したが、それ以外の男たちは容赦なく竜巻に蹂躙され、空中をぐるぐる舞っている。


「ぬおおおおおおおおおっ!」

「なんだこれはぁぁああああああああ!」

「痛い、痛い、やめてくれぇえええええ!」


 黒服たちがなにかを叫んでいるが、例によって暴風の音でなにも聞こえない。《紅龍・極魔剣》の恩恵で、魔法攻撃力が5000も上乗せされているからな。


 一見すると有利な状況に思えるが――しかし油断してはならないのは確かである。


 あいつらの身にまとっている防具は、魔法防御力も大きく高めると言っていたもんな。これでも全然効いていない可能性があるので、容赦なく魔法を浴びせていく必要がある。


「地属性魔法発動。上級魔法、デスロック‼」


 俺は見るも巨大な岩石を発生させると、それを黒服たちめがけて放つ。ファイアボールに比べてノロマな発射速度だが、いま連中は身動きが取れないからな。


 高威力な地属性魔法を優先させてもらった。


「――もうひとつ、地属性魔法発動。上級魔法、デスロック」

「最後にひとつ、地属性魔法発動。上級魔法、デスロック」


 合計で三つの大岩が、一斉に男たちに襲い掛かった。


「ぐぉおおおあああああああああああ‼」

「やめてくれぇええええええ!」

「死ぬぅうううううううううう‼」


 やはり連中の声は暴風音にかき消されてしまっているが、岩石は無事にすべて直撃させられたようだな。いくら黒服たちの防具が強力であろうとも、さすがに少しくらいはダメージを与えられたはず。


 だが引き続き、油断はできない。

 黒服たちの一挙手一投足を見逃さないよう、きちんと観察していないと……!


 そんな緊張感とともに身構えていたが、


「……ぁあああああああああああああああ……!」


 しかし空中から落下してきた黒服たちは、なぜかすっかりボロボロになっていた。


「お、おかしい……。なぜ炎魔法だけでなく、風も地も使えるのだ……!」


「あれ……?」


 おかしい。

 なんで早くも死にかけているのだろうか。


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