どこまでもドクズ
「く、くそ……! 馬鹿な……!」
地面に突っ伏している黒服たちは、全身をぴくぴくさせたまま立ち上がろうとしない。
……いや、もはや動くことすら難しいっぽいな。
懸命に立ち上がろうとするも、しかし膝が震えてまた地面に横たわってしまっている。
「ど、どうしたんだ? なんで
「あ、あんなのだと⁉ 貴様、我らを侮辱するか!」
「いやいや、侮辱じゃなくて純粋な疑問なんだけど……」
「き、貴様……! お、覚えて……おけ、よ……」
そのセリフを最後に、黒服たちは完全に気を失ってしまったようだ。ぐったりと地面にうつ伏せになり、もはやびくりともしない。
「つ、筑紫くん。やっぱり強すぎでしょ……」
美憂までもが呆れ顔だったのが印象的だった。
「ど、どどどどどど、どういうことよ⁉ ありえないわ⁉」
弥生までもが素っ頓狂な声をあげ、俺を指さしてくる。
「あんた、魔法は炎しか使えないはずでしょ⁉ どうして他の魔法も使えてるのよ⁉」
「いやだから、よくわからないけど使えるようになってるんだって」
「おかしい……。そんなルール、省庁は定めていないはずなのに……」
弥生はなおもブツブツ言うと、数秒後には表情を引き締め。
大きな魔導杖を空高く掲げるや、なんと空中に浮かびだした。
あの魔導杖もまた、俺は見たことがない。
おそらくダンジョン運営省だけに通ずるアイテムということか。空を飛ぶ能力なんて、いままで聞いたことないしな。
「いいでしょう。それならば私みずからが――おまえたち二人を懲らしめてやります。死ぬ覚悟はできているわね⁉」
「おまえこそ、いままで散々積み重ねてきた罪を精算してもらうぞ‼ 父さんの仇は――俺の手で討つ‼」
★
「はっ!」
弥生が魔導杖を一振りすると、C級の魔物、ホワイトウルフが三体出現した。
しかも使役能力まで持っているのか、その全匹が一斉に俺に襲い掛かってきているな。
――スキル《ルール無視》発動。
扱う能力は《相手の攻撃力 無視》。
「ワォォォォォォォォォォオオン!」
ホワイトウルフが俺に突進をかましてくるが、もちろん何のダメージにもならない。その隙を狙って風属性の魔法を発動し、三匹同時に遠くへと吹き飛ばした。
「やあああああああああ‼」
そして俺がホワイトウルフに囲まれている隙をカバーするために、美憂が弥生に向かって飛び出していった。その際、ポケットに入っているスマホを少し気にしていたようだが――俺の気にしすぎだろうか。
「ちぃっ! 面倒な……!」
その剣を魔導杖で受け止めながら、弥生が苦々しげな声を発する。
両者押し合いつつ、美優が怒りのこもった声を発した。
「答えなさい! 筑紫くんのお父さんはいったいなにを突き止めていたの!」
「はっ。馬鹿な小娘! そんなこと教えるわけがないでしょうが!」
剣と魔導杖で押し合いながら、弥生が醜悪な笑みを浮かべる。
「ふふふ、でも雄一が死んでいったときの苦しそうな表情は今でも覚えてるわよ? 最後まで私たちを信じててね。
「……あんた、本当に人間のクズね」
「あらぁ、褒めてもなにも出ないわよ♪ ダンジョン運営省の人間を敵にするとこうなるの。あんたも覚えておきなさい」
「……そう」
美憂は再びスマホの入ったポケットをチラ見すると、何故かしたり顔で頷き――大きくバックダッシュをかます。
そして俺の隣に並ぶと、ぎゅっと数秒だけ俺の手を握ってきた。
「美憂、あの作戦いけるか?」
「おけ。任せといて」
俺たちが互いに頷きあっていると、弥生は両手に魔導杖を掲げ、さらに天高く浮かび始めた。
「あははは、なに相談してるか知らないけどね。あんたたちもそこで終いよ。――さあ、これで死になさい‼」
そう言って弥生が出現させてきたのは、なんと複数の新緑龍ウッドネス。
掲示板ではA級の魔物とランク付けされていて、かなりの強敵であることが推察されるが……。
――いまだ‼
俺は再び《ルール無視》スキルを発動した。
今回使うのは、ぶっ壊れ能力の《三秒間の時の流れ 無視》。
さっそくその効果が発揮され、俺以外の時間がぴたりと停止する。
この隙を縫って、今度は《炎魔法使用制限 無視》を使用した。
――1秒。
俺は右手を突き出し、炎属性の上級魔法、プロミネンスボルトを放つ。
炎で形成された可視放射のようなもので、その威力はファイアボールとは比べ物にならない。いくら新緑龍が強くとも、決して看過できぬダメージが通るだろう。
――2秒。
高速で押し寄せていく可視放射が、止まったままの新緑龍を丸ごと包み込む。
ついでにもう一発ほど同じ魔法を放ち、これで確実に仕留められるように仕掛けておく。
――3秒!
「美憂! いまだ!」
「……! おっけ!」
能力によって美憂の動きも止まっていたが、俺の一声で
美憂は瞬時に猛ダッシュをかまし、魔導杖を高く掲げている弥生へ一気に距離を詰める。
ちなみに新緑龍たちは狙い通りプロミネンスボルトによって倒れてくれたので、進路を阻むものは誰もいない。
「な……⁉ まさか時間を止めた……⁉」
弥生もすぐに事態を把握したようだが、しかし身体がついていかないようだ。
「や……ぎゃあああああ!」
魔物を召喚したばかりの隙を、美憂の強烈な斬撃が見舞った。
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