推しのためならなんでもする&コメント回複合

「くっ……。馬鹿な!」

 自身の右腕を抑えながら、弥生が片膝をつく。

「ありえない……! この私が敗れるなどと……!」


「往生際が悪いわね。いい加減負けを認めなさい」


 美憂が冷たい声を発しながら、弥生の額に剣の切っ先を突き付けた。


「自慢の魔導杖も遠くに斬り飛ばしてやったわ。これでもう、あなたは何もできない」


「…………」


 そこで美憂は自身のポケットをチラ見しつつ、再び弥生に目を戻した。


「さあ、話してごらんなさい! 十年以上も前、筑紫くんのお父さんに、あんたがなにをしたのかを!」


「ふふふ……あはははははっ!」


 とうとう気が狂ってしまったか。

 弥生は片膝をついた視線のまま、なかば投げやりのような笑い声を浮かべた。


「仕方ないわねぇ。ここまですると本当は怒られちゃうんだけど……こんなにも虚仮こけにされた以上、さすがに黙ってはいられないわ」


「なに? なに言ってるの?」


「なあに簡単よ。ダンジョン運営省にはね、とっておきの実験体があるの」


 そう言って弥生は、装備の内ポケットから紅色くれないいろの宝石を取り出す。


「危険すぎて、ダンジョン外にも影響を及ぼす可能性があるんだけど……まあ、あんたたちが悪いのよ。この私を虚仮にしたんだから」


 ゴォォォォォォォォオオオ……!


 その宝石は時を追うごとに輝きを増し、轟音を響かせていく。

 刻一刻と、その宝石から邪悪さが伝わってくる……‼


「くっ……!」


 美憂がすぐさま宝石を取り上げようとしたようだが、一歩間に合わなかったらしい。


 ダンジョン一帯を照らす紅色の光とともに――見たことのない化け物が出現したからだ。


「なん……だ、あれは……‼」


 俺も思わず上ずった声を発してしまう。


 一言で表現するとすれば、巨大なる影というべきか。身体全体が陽炎かげろうのように揺らめき、この世の存在ではないことが人目でわかる。


 頭部にあたる部分には紅の目と口があり、そして人間のそれと同じように、手も足もある。俺もいままでダンジョン配信の動画を何度も見てきたが、一度も見たことのない化け物だった。


「ふふ、あなたたちもこれでおしまいよ。シヴァーナ、全力を解放なさい」


「グォォォォォォォォォオオオ‼」


 化け物――シヴァーナがそう叫んだだけで。


 この階層一帯が……いや、ダンジョン全体が激しく揺れている。


 天井からいくつもの岩の欠片が落下し、まるでダンジョン悲鳴が悲鳴をあげているかのようだった。



――――


ディストリア:む……⁉


ゆきりあ:なんだこれ、地震か……⁉


バルフ:なんだか奇妙だよな。ミルちゃんが音声だけの配信をしてて、たぶん弥生と戦ってるんだとは思うが……。


美里:霧島くんたち、弥生には勝ってそうだよね? それだけは伝わってくるんだけど……。


リストリア:そして弥生が《ダンジョン外にも影響を及ぼす》と言った瞬間にこの大地震か……。これはいったい……。


しーま:くそっ! できれば実際に確かめにいきたいが、月が丘ダンジョンは遠い……!


ディストリア:ならば良いだろう。僕が出向くとする。


リース:へっ?


ゆきりあ:ディストリアニキ参戦⁉


ディストリア:既女くんたち、君たちは引き続きダンジョン運営省に問い合わせを。本件についてSNSで拡散するのもいいだろう。


ショコラ:おっけ! みんな暇してると思うし、遠慮なく拡散に協力してもらうよ!


レミ:私もミルちゃんほどではないけど、有名な配信者の知り合いいるし。その人に発信してもらおう。


ディストリア:オッケー、それからソラキン氏への告発も忘れないでくれ。彼ほどのインフルエンサーであれば良い具合に拡散してくれるだろう。


バルフ:なんかディストリアニキ、いつもと印象違くね? 一気に〝しごでき〟に見えてきたんだか


ディストリア:ふふ、大切な推しを守るためなら何でもする。それが僕らオタクではないのかい?


バードス:かっけえ


ディストリア:まだまだ時間がかかりそうだから、できればもう一人くらいいてくれると助かるが……どうか霧島少年、ミルちゃん、どうかこの日本を守り抜いててくれ……!



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