目を覚ましたら、目前にでっかいおっぱい

「ん……?」


 ふいに目が覚めたとき、目の前に大きなおっぱいがあった。


「へっ……⁉」


 思わず素っ頓狂な声を発してしまったが、俺はすぐに今の状況を把握した。


 ――俺はいま、綾月ミルに膝枕をしてもらっている。


 たぶん視聴回数を意識しているのか、やや露出度の高い服装をしているミル。

 胸元など大きく開けているし、ミニスカートも目のやり場に困るほどに短い。


 ただでさえ超絶美少女のミルがこんなあられもない恰好をしていて――そんな彼女に、俺が膝枕されていて。


 童貞コミュ障の俺にとって、なんとも刺激の強すぎるシチュエーションだった。


「ど、どどどどど、童貞ちゃうわ⁉」


「へっ?」 

 いきなり俺が叫んだせいでびっくりしたんだろう。

 ミルも同じく素っ頓狂な声をあげる。

「よ、よかった……。無事に目が覚めたんですね」


「はい。おかげさまで……」


 そういえば、なんで俺はミルに膝枕をしてもらっているのだろうか。


 俺の記憶が正しければ、ついさっきまで紅龍ギルガリアスと戦っていたはずだ。無事にビッグバンスラッシュが紅龍に直撃して、倒せたと思ったら紅龍が起き上がって、それで……。


「…………っ⁉」


 すべての記憶を取り戻した俺は、慌てて上半身を起こす。


 そして一通り周囲を見渡したあと、最後にミルを見つめて言った。


「紅龍は、どうなりました……⁉ たしか俺が吹っ飛ばしたあと、意識が途切れて……」


「大丈夫ですよ。安心してください」

 慌てまくる俺に対し、ミルは笑顔とともに答える。

「紅龍ギルガリアスは無事に倒せました。筑紫くんが紅龍を吹き飛ばして、壁に激突して……そのときの衝撃がトドメになったようですね」


「え……? ほ、ほんとですか?」


「はい。あれを見てください」


 ミルの指差す方向に視線を向けると、たしかに紅龍の死体が見て取れる。


 あの素材をすべて売ったらいくらになるんだろうか……そんな妄想を思わず繰り広げてしまうのは、うちが貧乏であるゆえか。


「あの……ありがとうございました! 筑紫くんは、私の命の恩人です」


「あ、いやっ、そのっ」

 ミルにいきなり頭を下げられ、コミュ障をいかんなく発揮する俺。

「き、気にしないでください。俺が好きでやったことですし……」


「いえいえ、ここはお礼を言わせてください。筑紫くんがいなかったら、私はいまごろ、この世にはいませんでしたから」


「…………」


「だから、筑紫くん」

 ぐいっと距離を詰められ、俺は思わず胸を高鳴らせてしまう。

「このままじゃ私の気が済みません。いつか……お礼をさせていただけませんか?」


「お、お礼って……」


 別にそんなことのために助けたんじゃないんだけどな。

 そこまで感謝されてしまうと、俺のほうが申し訳なくなるというか。


 だから最初は断ろうとしたんだが、真のコミュ障を舐めてもらっては困る。


 適切な言葉がまるで思い浮かばず、

「よ、よかったら、ぜひっ」

 となんとも情けない答えをしてしまった。


「ふふ……ありがとうございます♪」

 しかしなぜかミルは嬉しそうな笑みを浮かべると、スマホをこちらに差し出してきた。

「そしたら、ロイン交換しましょう。連絡先知らないと困りますしね」


「ロ、ロイン……⁉」


 おいおいおい、嘘だろ。

 日本中の男が憧れている美少女――綾月ミルと連絡先を交換するなんて。


 俺は夢でも見ているんだろうか。


「いてっ」


 試しに頬をつねってみたが、痛いだけで目が覚めることはなかった。


「ど、どうしたんですか? いきなり頬つねって」


「いやいや、な、なんでもないです」


 後頭部を掻きながら苦笑する俺。

 ミルも少し不思議そうな顔をしていたが、大丈夫、俺は嫌われていることには慣れている。


「あ……えっと、このアカウントであってます?」


 ミルのQRコードからロインアカウントを読み取ると、「綾月美憂(あやつきみゆう)」という名前が出てきた。


 綾月美憂。

 もしかすれば、これがミルの本名だろうか……?


「あ、そうです合ってます。内緒にしてくださいね」


 そう言って人差し指を唇にあてるミルは、控えめに言って超絶可愛かった。



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