ざまぁ回 下された処分



「え~、こほん」


 微妙になった空気感を、校長が咳払いによって仕切りなおした。


「郷山健斗。改めて……おまえ・・・の処遇について話をさせてもらおうかね」


 そこで表情をぐっと引き締める校長。


「ひっ…………」


 顔全体に刻み込まれた深い皺が、否が応でも郷山の恐怖心を引き出した。


「わかっているだろう。おまえの不適切な言動によって、我が校の信用は地に堕ちた。今も先生方が電話応対に追われている。おまえのバカな行動のせいで――通常の学校運営がまるで成り立たなくなっている」


「…………」


「学則第五十一条、学生が本校の命令に背き、公序良俗に反する行為があったとき、本校は学生を懲戒処分に付することができる。懲戒は、譴責けんせき、停学、退学の三種とする」


 手元にある書類を読み終えると、校長の鋭い目線が郷山に突き刺さった。


「……よって郷山健斗。おまえの処分も決めさせてもらった」


「…………」


「本日付で、郷山健斗には停学一年の懲戒処分を命ずることとする。しばらく自分を見つめなおし、己の愚かさを猛省しなさい」


「あ……」


 停学。

 それは郷山にとって、最も聞きたくない言葉の一つだった。


 停学になってしまえば、当然、いまの同級生たちとまともに学校生活を送ることができなくなる。いま足でこきつかっている後輩たちと同じ学年となり、一年遅れた状態で生きていかねばならない。


 それは郷山にとって……最大の屈辱だった。


「本当は退学処分にすることも考えたがね。本件については、いじめを見過ごしていた我々にも問題がある。おまえにすべての責任をなすりつけるわけにもいくまい」


 そんな……。


 俺はただ、軽い気持ちで〝暇つぶし〟をしてただけなのに。

 ただただ、霧島の辛そうな顔を見るのが楽しかっただけなのに。


 そんな思考を巡らせながら、郷山は隣に座る母――弥生に目を向ける。


「マ、マッマ……」


 しかし弥生はいまの話を意に介することなく、気怠そうに校長に視線を向ける。


「……で? 話は終わったかしら?」


「は……?」

 そこで目をきょとんとする校長。

「なにをおっしゃる。あなたは今の話を聞きにきたのではないのですか」


「そんなわけないでしょう。ここまで炎上が広がっている以上、懲戒処分は免れない。そんなわかりきったことを、わざわざ確かめにくるわけがないでしょう?」


「…………では、いったい何の用で?」


「決まっています。この騒動の渦中にいる霧島筑紫。彼を一緒に陥れませんか」


 校長室に沈黙が広がった。

 さっきまで威厳を保っていた校長でさえ、数秒間たっぷりと固まっている。


「すみませぬ。なにを仰っているのか、まるで理解が……」


「おや。この後に及んでシラを切るつもりですか? 私が誰なのか――わからないわけではないでしょう?」


 そこで弥生は懐から名刺を取り出し、それをデスク上に差し出した。


 ――ダンジョン運営省 探索者育成局 局長 郷山弥生


「……これがなにか?」


「簡単なことです。マスメディアを使えば、世論操作なんて簡単。いまは健斗を停学にすることしかできませんが、時間を置いて、霧島を悪者に仕立て上げるんです。……そうすれば高校の名誉は回復しますし、あなたの出世にも悪くない影響が出るのではありませんか?」


「し、しかし……」


 そこで校長はそこで一拍置くと、ふうとため息をつき。

 ゆっくりと立ち上がりながら、弥生を見下ろした。


「郷山弥生さん。あなたがそこまで霧島くんに執着するとなれば……やはり、昔の週刊誌に載っていた情報は本当だったということですか」


「おや? なんのことだかわかりませんが」


「ならばずばり言いましょう」


 校長はそこで真っすぐに弥生の瞳を見据えた。


「いまでも不運な事故として処理されている、霧島筑紫くんの父親の死亡事故。死因は連続して襲い掛かってくる緊急モンスターだったとされていますが、あなたの使用スキルは……《魔物召喚》でしたね?」



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