ざまぁ回 郷山の情けない素顔






~霧島が学校に赴く少し前~



「ちくしょう……ちくしょう……。なんで俺が……ッ‼」


 ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪


「ひいっ……!」

 断続的に鳴り響くスマホの着信音に、郷山健斗は身を震わせていた。

「なんでだよ……! 俺は悪くねえだろ。あいつが陰キャで気持ち悪ィのが全部悪いだろ……‼」



 ――ねぇねぇ破壊神(笑)くん、いじめてた相手にボコボコにされてどんな気持ち?

 ――あーあwww このデジタルタトゥー、一生消えないねぇwww 悲しいねぇwww

 ――親の顔が見てみたいわマジでwww



 どうやら昨日の霧島との決闘は、なんと生配信にて世界中に流されていたらしい。


 インフルエンサーのソラキンがそれを広げ、俺が逃げ惑っている切り抜き動画が配信サイトに投稿され、SNSのトレンドには「破壊神(笑)」があがってしまい……。


 結果、もはや手のつけられないほどに昨日の決闘が世界中に知られてしまった。


「くっそ……! くっそ……!」


 だから郷山はいま、自室のベッドにてうずくまっていた。


 学校には行けなかった。

 昨日の決闘がこれほど拡散されてしまっている以上、高校の生徒たちもこれを知っている恐れがある。


 誰かに馬鹿にされながら足を運ぶ――これは郷山にとって、これ以上ない屈辱だった。


 馬鹿にされていいのは、霧島のような陰キャだけだ。俺様のような圧倒的陽キャが迫害されるなんて、世の中狂っているとしか言いようがない……と。


 しかし現実は無情なもの。


 ――郷山健斗。校長先生がお呼びです。本日8時に校長室に来なさい。なお本命令に従わない場合、強制的に退学処分とす――


 つい先ほど、担任の教師からこんなロインが届いてきた。


 このタイミングで校長室に呼ばれる理由。

 それはもはや、考えるまでもなく明らかだろう。


 ネット記事によると、いじめを容認していた学校に電話が殺到しているようだし――郷山にとってあれは「いじめ」ではなく「単なる暇つぶし」であったが――その件であることは間違いない。


 だから自身に鞭打ってでも、今日は学校に行かねばならない。


 月島高校といえば、地元ではそこそこ有名な進学校。それを退学になってしまったら、高校受験の際、必死こいて勉強したのが無駄になってしまう。


「健斗。起きてたのね」


 と。

 そろそろ身支度を始めようかと思い立ったとき、母親の弥生やよいが部屋に入ってきた。


「マ、マッマ……」


「まったくあなたは仕方ない子ね。私の手間が増えちゃうじゃないの」


「ごめんマッマ。俺……」


「いいのよ別に。これくらいの不祥事はね、適当にもみ消しておけばいいの。あのとき・・・のようにね」


 ――弥生。

 彼女も現役の探索者で、たしか掲示板ではSランク認定されているほどの凄腕冒険者だ。


 使えるスキルは《魔物召喚》。

 弱い魔物から強い魔物まで、みずからの手で呼び出し、使役することができる。緊急モンスタークラスの魔物まで呼び出せるので、文字通り化け物スキルだ。


 郷山には詳しい事情は不明だが、昔、弥生は霧島親子となにか一悶着あったようだ。


 そのせいで霧島家族を目の敵にしており――その息子たる筑紫をいじめろと言ってきたのも、この母、弥生だった。


「行きましょう。学校に呼ばれてるんでしょう? その様子だと」


「マッマ……。助けてくれるの?」


「任せておきなさい。私たちに牙を剥くとどうなるか……お父さんのときと同じ苦しみ・・・・・・・・・・・・・を、味わわせてあげるから」



  ★


 というわけで、郷山はいま、月島高校の校長室に訪れていた。


 もちろん――母を伴った上でだ。


「……な、なぜお母さまが? 私が読んだのは生徒だけのはずですが」


 テーブルを挟んだ向かい側で、開口一番、校長があきれ顔でそう述べた。


「そ、それは……マッマがそう言うから……」


「マッマって……。郷山くん、君は……」


 やはりあきれ顔の校長だった。



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