なぜか聖人扱いされてるけど、その理由がわからない
「こ、これは……⁉」
翌朝。
身支度を始める前に軽くスマホをいじっていた俺は、到底信じがたいネット記事を見かけてしまった。
――伝説の探索者あらわる その名は霧島筑紫
――どっちが破壊神だ⁉ 上級魔法を涼しげに放ち続ける謎の少年
――綾月ミルを助けた高校生さん、あの郷山健斗をこともなげにKO
――パブロックともコラボ配信していた郷山健斗、学校内ではひどいいじめをしていたことが発覚。現在、学校に問い合わせが殺到中
昨日の決闘を取り上げている記事の、なんと多いことか。
ただでさえ美憂は有名配信者なのに、そこにインフルエンサーのソラキンまでもが乗り込んできているからな。もはや収集がつかない事態に陥っている。
コメント欄は怖くてあまり見られていないが、なぜか俺を聖人扱いする声が多かった。
――これを今まで黙って耐えてた霧島くん聖人
――自分だって大変なのに、あのとき身体張ってミルちゃんを助けた神
……と、わけのわからない持ち上げっぷりをされていたのである。
それ以上は恐ろしくなったのでコメント欄を閉じてしまったが、いずれにせよ、昨日の配信から事態が大きく動き出していることはたしかだった。
「くそ……まさかあのとき、配信を切り忘れていたなんて……」
そう。
郷山が尻尾を撒いて逃げていった後、俺たちもさすがに疲れたので、それぞれの家に帰ろうとしたんだよな。
そして撤収の準備をしている間、急に美憂がとんでもない大声を発していたのだ。
「あああああああっ! やっば! 配信切り忘れてるぅぅぅぅぅぅうううう‼」
と。
要するに郷山との決闘は、昨日、全国の視聴者に届けられてしまったことになる。
あんな身内の喧嘩話なんか見せられたって、視聴者的にはなにも面白くないと思っていたんだが――それが逆にハネてしまったらしい。
ほんと、世の中ってなにがバズるかわからないよな。
たかがファイアボールを打っているだけのシーンがハイライトとして取り上げられているが、あんな初級魔法なんぞ眺めていたって、なにも面白くないだろうに。
……いずれにせよ、今日も学校だ。
なるべく隠れていたい気持ちもあるが、ここは勇気を出して登校せねばならない。
そう覚悟を決めて、俺は登校の準備を始めるのだった。
★
家を出てから数分後。
「あ、霧島くん。久しぶり」
ふいに背後から声をかけられ、俺は思わず身を竦ませる。
「え、えっと……塩崎さん?」
「あ、覚えていてくれたんだね。よかった……」
――
たしか去年同じクラスだった女子生徒で、まあ一言でいえば、高嶺の花である。
腰まで伸びた黒髪に、大人しそうながらも可愛らしい顔立ち。そして胸部は無意識に視線を向けてしまうほどに大きく、男の夢をすべて詰め込んだような女子生徒だ。
もちろん、それだけにお近づきになりたい男子生徒も沢山いたはずだが――。
その反面、すさまじい塩対応っぷりで知られているのも彼女の特徴だった。
なにを話しかけても「それで?」「だから?」「要件は?」とあしらわれるだけなので、その意味でも校内で有名人だったはず。
そんな彼女がまさか自分から話しかけてくるなんて、よっぽどのことがあるんだろうと思ったが――。
「あのね、
「…………は⁉」
ちょっと早口すぎてなにを言ってるのかわからなかったが、最後、とんでもないこと言われた気がするぞ。
「と、とりあえず、さすがに付き合うっていうのは……早いんじゃない? 俺もそんなたいした人間じゃないし……」
「む。簡単に手を出してこない。今までの男と違う。やっぱり筑紫くんは聖人」
「…………」
駄目だ。
ネット記事みたくなぜか聖人扱いされまくってるが、その理由がほんとにわからない。
「じゃあ、せめて一緒に学校いこ。……それも、ダメ?」
「う」
上目遣いに見つめてくるのは反則だった。
「そ、それなら別に……。じゃあ、一緒にいこうか」
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