明らかにやばい新能力
ちなみに帰宅時も、多くの報道陣が校門前に押し寄せていた。
「さあ英雄の霧島筑紫くん、果たしてカメラの前に姿を現わしてくれるのでしょうか⁉」
「現場には今も、霧島くんのファンと見られる方々が大勢足を運んできております! あ、彼女たちにちょっと取材してみましょうか?」
「え、私ですか? はい、霧島くんのファンです。今日は彼のために色紙を持ってきてます、はい‼」
「みゅうです! 霧島くんのことを考えたら夜も眠れなくて、遠くからでもいいから直接来たくてきました!」
……とまあ、こんな感じで大変な騒ぎになっているのである。
いくら〝秘密の裏口〟があるとはいえ、さすがにこのまま平穏無事に帰れるだろうか……?
そんなふうに下駄箱付近を右往左往していたところで、背後からつんつん肩をつつかれた。
「み、美憂……」
「ふふ、有名人は大変だよねぇ。わかるよその気持ち」
美憂はそう言ってどや顔を決めると、周囲に誰もいないことを確認し――バッグからなんとウィッグを取り出したではないか。
しかも男性用のウィッグで、茶色のキノコヘアーとなっている。
いまの俺とは似て非なる髪型をしているので、ほんの数秒間だけ報道陣を騙すくらいであれば何の問題もないだろう。
「み、美憂……まさかこれ……」
「ま、私も配信当初は色々と苦労したってわけよ。あげるから遠慮なくつけてって」
「ありがとう……! 助かるよ」
さすがは有名配信者というだけあって、こういうところにも気配りがきくんだな。本当に助かる。
「でも、なんなら取材受けてきてもいいんじゃない? あそこにいる女の子たち、みんな可愛いよ?」
「うう~ん、ああいうのはどうも苦手で……。俺はこうして普通に話してる時間が一番楽しいよ」
「えっ……? そ、そう? ならいいんだけど」
なぜだか頬を赤らめる美憂。心なしか表情を綻ばせているが、いったいどうしたのだろうか。
とにもかくにも、これで報道陣の波から脱出することに成功。
落ち着いたところでウィッグを外し、美憂に返そうとしたのだが――。
「いや、いいよ。今後も使うかもしれないし、筑紫くんが持ってて。あなたのために買ったんだし」
と逆に返されてしまった。
「え、でもそれだと悪いよ。お金もかかっただろうし……」
「ふふ、気にしなくていいってば。筑紫くんのおかげで再生回数めちゃくちゃ伸びてるし……それにね、スーパーチケットもいっぱい入ってるんだよ」
スーパーチケット。
それはいわゆる《お布施》のようなもので、リスナーが好きな配信者に対し、任意の金額を贈ることができるんだよな。
たしか2000円~50000円の範囲でお布施をすることができて、その七割を配信者が受け取ることができる。残りの三割は動画投稿サイトに持っていかれてしまうが――配信者にとってありがたいシステムなのには変わりなかった。
「そうね。正確には数えてないけど……合計で100万は超えてるんじゃないかな?」
「ひゃ、100万⁉」
「そうそう。しかもそのなかには、筑紫くんに渡してほしいってコメントもいっぱいあったよ」
「…………」
「だからこれくらい気にしないでって。あ、入金分が届いたらちゃんとそれも筑紫くんにあげるからね」
「そ……それはどうも……」
前の紅龍の報酬といい、生活状況が一気に変わりつつあるな。
母の喜ぶ顔を見られると俺も嬉しいので、まあ願ったり叶ったりではあるんだが。
「それで、筑紫くん。私になにか相談があるって言ってなかった?」
「あ……うん。昨日郷山と戦い終わった後、また新しい能力が追加されたみたいでさ。それを相談したいんだ」
「え、新しい能力……? また?」
さすがに驚いたのか、目をぱちくりさせる美憂。
「う、うん。その能力がさ……《三秒間の時の流れ 無視》ってやつで……」
「えっ……! それって……!」
「やばいよね。だから相談したくて……」
「わかったわ。軽くカフェで休んだら、近くのダンジョンで試してみましょう」
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